ツアープレーヤーたちの悩み<篠崎紀夫>
ANAオープンでプロ16年目にして悲願のツアー初優勝をあげた篠崎紀夫には、ひそかに悩ましいことがあった。
研修生時代から世話になっている所属先の練習場「北谷津ゴルフガーデン」が推進するジュニア育成プログラムは普段、篠崎を中心にレッスンが行われているが、折に触れて“特別講師”を招くこともある。
自身もジュニア時代は同ゴルフ場でレッスンを受け、そこを巣立っていった横尾要もそのひとり。
いつもは、篠崎を「篠プロ」と呼んで慕う子供たちや、「篠崎先生」とそれなりの敬意を払ってくれる親御さんたちも、たった一人のスター選手の登場で、あっという間に目の色が変わる。
身長176センチのスラリとした美男子である横尾に一気に熱い視線が集中し、いっとき「篠プロ」の存在は完全に忘れ去られてしまうのだ。
そしてレッスンが終わるなりサイン攻め。
かたわらで、ポツンとその様子を見守る篠プロが思わずつぶやく。
「俺もプロだっちゅ~のに・・・」。
おしゃれとは言いがたいスポーツ刈り、無骨に日焼けした顔。ツアープレーヤーで「3番目に小さい身長162センチ」の外見もさることながら、優勝はおろか当時はシード権すらなかったのだから無理もない。
「分かっちゃいるけど・・・やっぱり、ねえ?」。
一抹の寂しさと羨望を向けずにはいられなかったが、この1勝でようやく少し胸を張れる。
体格に恵まれた近頃の子供たち。
「下手したら、ジュニアよりも小さいけれど、そんな僕でもツアーで勝てる。それを励みに、もっともっとゴルフが好きになってくれたらうれしい」とスピーチした表彰式で、ベストアマチュア賞受賞で肩を並べた東北福祉大の池田勇太さんもまた、篠崎の教え子だった。
「中学時代から、すでに僕より前に飛ばした勇太とこうして並んで立てるなんて」と、万感の思いで記念撮影におさまった。
サッカーのスポーツ推薦で内定をもらっていた体育大でまさかの不合格通知をもらい、一念発起で目指したプロの道は思いのほか険しかった。
「一生優勝できないどころか、シード権も取れない」と絶望したのも一度や二度ではなかったが、その笑顔にはどんな苦労も諦めず、地道に努力を重ねてきた実直さがある。
「これで、子供たちの目も少しは変わるかな」と、篠崎。
しかしすぐに首を振り、「これからもずっと、俺は“篠プロ”のまんまでいいやあ」と、つぶやいた。
確かに派手さはないかもしれないが、親しみやすさと人の良さが何より篠崎の持ち味だ。
ちなみに、今週のコカ・コーラ東海クラシックでツアー3戦目を迎える石川遼くんも、何度か“篠プロ”のレッスンを受けたことがあるという。果たして、いまや国民的アイドルは、自分のことを覚えてくれているだろうか。
「・・・まさか、覚えてなんかいないだろうなあ」と、笑った。