ツアープレーヤーたちのお気に入り<片山晋呉>
意外と「モノに恋するタイプ」という片山晋呉が最近、一目ぼれしたのが「バカボン一家」だ。
70年初期にスタートして人気を博した「天才バカボン」は、長男バカボンのパパを中心に、4人家族とそれを取り巻く人々のドタバタな日常を追いかけたテレビアニメだ。現在35歳。まさに「バカボン」世代の片山が、久しぶりに一家と対面したのは先月のことだった。あるゴルフショップのヘッドカバー売り場で、ズラリと並んだ家族を見つけた。「かわいぃ~」と絶叫した片山は、その場で即決。「もう、全員買っちゃう!」と、1個4700円のヘッドカバーを買い占めてしまったのだという。
パパとママ、そしてバカボンとハジメちゃんを両手に抱え、ウハウハの片山。しかし、さすがに4人とも使うとなると、キャディバッグの中身が大変なことになってしまう。
そこで、韓国・済州島で行われた欧州とアジア共催の「バランタイン選手権」には、バカボンのパパだけを連れてきたのだが、それでも1つ人間の頭ほどもあるそれは、かえってお荷物になってしまう場面がたびたびあった。
キャディの石井恵可さんが細心の注意を払っているとはいっても、時には失敗もある。 あるホールでギャラリーと選手を分けるロープをくぐろうとしたときに、ロープにパパの首が引っかかってしまった。その弾みでパパはクラブごと派手にバッグから飛び出して、大きく弾んで道路に落ちた。
その様子には、片山も腹をかかえて大笑い。ドライバーを拾い上げ、「ヘッドカバーの意味ないじゃん!」と言いつつ、「でもやっぱ可愛い」と、愛しそうにパパの頭を撫でたものだ。世界でも十分に通用するのはゴルフだけではない。そんな細かな小物の演出が、周囲の視線を引きつける。いつでもどこでも、“シンゴワールド”を作り出す。それがひいては、自分自身の気持ちを高めていく材料になる。
サスペンデッドとなった前日第2ラウンドの残り競技と第3ラウンドをこなした大会3日目には、銀色の光沢まぶしいコーデュロイのパンツで登場して、「今日は、ちょっと光っとこうと思って」とニヤリと笑った。その言葉どおり68をマークして、9位タイに浮上した。もはやトレードマークのテンガロンハットと個性的なコスチュームは、韓国のファンにも大人気。大会初日には、地元メディアからこんな質問も飛び出した。
「今日もすっごくおしゃれですけど、コーディネイトには何分くらいかけるんですか?」。これには、片山も目が点になり、「ええ~っと、何分?!…て、どう答えたらいいのかなあ…?」。言葉に詰まってしまった片山には記者も大慌ててで「スミマセン、僕が個人的に興味があったもので…」と恐縮しきり。顔を真っ赤にして謝るその様子には、聞かれた片山のほうが思わず吹き出す一幕も。
そして最終日には、単独4位に食い込んで存在感を堂々アピール。世界ランクも再び50位内に戻し、自身7度目のマスターズに向けて、着々と準備も整いつつある。さてその際に気になるのは、果たしてかの地にも例のバカボンのパパを連れていくのか、ということであるが、うっかり韓国で、片山にその点を確認してくるのを忘れてしまった。東京都新宿区下落合在住というパパがはるばると海を越え、あのマグノリアレーンをくぐるのか…!? 片山のバッグの中で、「ワシがオーガスタに行くことは、反対の賛成なのだ~」と訴えるパパの声が、今にも聞こえてきそうである。