ツアープレーヤーたちの二足のわらじ<江連忠>
普段、スイングをみてもらっているコーチが試合で活躍すると、その生徒たちは複雑な心境になるようだ。実際に、それはジャパンゴルフツアー第2戦「つるやオープン」で起きた。二足のわらじを履く江連忠が第2ラウンドで5位タイにつけて、実に7年ぶりの決勝ラウンド進出を果たした。
「予選通過しただけでも奇跡」と、驚いたのは本人だけではなかった。その日63をマークして、単独首位に立った岩田寛は思わず言った。「普段、練習もストレッチもしないのにすごいですよね!」。毎年、出場優先順位を決める予選会クォリファイングトーナメント(QT)に挑戦してツアー出場の夢を追いながら、プロコーチとして脚光を浴びるようになった今は自分のこともそっちのけで、人の面倒ばかり。そんな状況ながら、いきなり結果を出してきた江連に感心しきりだ。
もっとも「プライベートなラウンドでは、今まで江連さんに勝ったことがない」と話した岩田は、いざ試合での真剣勝負で勝ちたいと、決勝への発奮材料とした。かたや通算3オーバーで予選落ちしてしまった星野英正は少なからず、“先生”の様子が気になってしまったようだ。米国人コーチのジム・マクリーンに学んだ江連は、特に試合中の選手の心理状態を前提にした指導法で、星野をはじめ片山晋呉や賞金女王の上田桃子ら多くの選手たちをトッププレーヤーに押し上げてきた。その実績からいっても、そのレッスン理論が確かなものであることは、言うまでもない。「もちろん、江連さん自身も頭では分かっているはずなんです。ただ、たまに試合に出ても、そのとおりに体が動かないだけなんですよね。今回は、ちゃんとやれているのかかなあ…とか、確かにあのときラウンド中にもチラチラ考えちゃいましたよね」と、苦笑いで振り返る。
3年前から指導をあおぐ清田太一郎も先生の活躍を喜んだが、それは自分自身のためでもあった。「だって、ああして実際に上位争いをすることで、江連さんのコーチとしての幅が広がるでしょう?」と、無邪気に言う。「自分でも試合の中でプレッシャーを経験をしたことで、見えてくるものもあったはずです。なんたって、日本一のコーチですからね。必ず今回のことを生かして、きっと僕らに新しいコーチングを伝授してくれるはず」と期待を寄せる。
結局、最終日は15位タイに終わったが、5年ぶりのツアー出場を果たした前週の開幕戦から2試合目の結果としては上出来といってよく、「さすが先生」と言わしめた。今年は主催者推薦を受けたこの2試合のほかは、とりあえずまだ出場の予定はないというが「みんなも、(試合に)もっと出てもいいよって言ってくれるからね。やっぱり、試合でバーディを取ると嬉しいもんだし、チャンスがあればもっと出たいね」と、本人もがぜんやる気だ。
2日目を終えたとき、もし優勝したらその後はどうするか、と報道陣に聞かれてたちまち笑みが崩れた。「ないない、絶対にありえない」と手を振りつつ、「そうだなあ、もしそんなことが起きたら…試合を選びながらコーチを続けるかな」と、本人もまんざらでもなさそうだった。これには星野も大賛成だ。「僕もいつか、江連さんと一緒に優勝争いがしたい」と、目を輝かせた。「僕は、江連さんがそばにいてくれるだけでものすごく安心できるからね。一緒だと、思い切りプレーができそう!」とそのシーズンを想像して嬉しそうに言ったあと、シード6年目&ツアー通算2勝のプライドもチラリ。「でも、そうなったら僕は江連さんには絶対に負けないけど。というか、楽勝で勝つよ」。 そう言い放った瞬間に“生徒”から“プロ”の顔になった。