ツアープレーヤーたちの目標<細川和彦>
来年度から、ジャパンゴルフツアーでもドーピング検査が導入される。それに伴い、なんらかの持病がある選手はあらかじめ、届け出なくてはならなくなる。治療のために服用する薬が、検査に引っかかる可能性があるからだ。
これにさっそく、手を挙げたのが細川和彦だ。「ひどくなれば僕の場合、治療にステロイド剤を使用することもあるからね」。難病指定の潰瘍性大腸炎を発症したのは2001年。9月、細川の地元・茨城で開催されたトーナメントでツアー通算7勝目をつかんだその2週間後だった。「日本オープン」初日に激しい腹痛に襲われ、ハーフターンでトイレに駆け込んでから、下痢が止まらない。そのまま緊急入院して17日間。ベッドの上で、朝から晩まで点滴を受けたがいっこうに回復しなかった。いよいよ精密検査を受けて、原因不明の病との診断が下されたとき、「俺のゴルフ人生は終わった」と、一度は絶望したほどだ。
症状を軽くする手段はあると励まされ、気を取り直して治療に励んだが、薬の副作用に苦しんだ時期もある。一度、再発すると「食べても消化できない。それこそ1日中、トイレに座っていないといけない」。ラウンド中は、トイレを見つけるごとに駆け込み、集中できない。それでも根気よく病いと向き合い、つきあい方も覚えた今は、症状も落ちついているというが「今日は良くても、明日また悪くなるかもしれなくて」。再発の不安といつも隣り合わせの毎日は、食生活の変化によっては一気にぶり返すこともあり、ここ数年は目標だった海外遠征も、あえて控えるようにしてきた。
そんな細川にとってトーナメントで活躍することはある意味、使命でもある。現在、同じ病気で苦しむ人々は、全国10万人を到達するかとの勢いで、中には仕事を辞めざるを得ないほどの症状を抱えている患者もいる。「そんな人たちを、少しでも元気づけられれば」という思いが細川を駆り立てる。
実際に、病いを発症してからの“初優勝”となったツアー通算8勝目、2005年の「UBS日本ゴルフツアー選手権 宍戸ヒルズ」は大きな反響があった。細川への励ましや感謝の言葉に混じって、有効な治療法や漢方薬を紹介した手紙やファックスが数々届いた。「教えてくださった方法は、自分でもすべて試してみたり…本当にありがたかった」という。そのあと、またしばらく勝ち星から遠のいているが、先の日本プロで3日目に64をマークして、単独2位に浮上。持病について、ここぞとばかりに饒舌に語った細川は、翌週の「マンシングウェアオープンKSBカップ」で報道陣に向かって頭を下げた。「みなさんに記事にしていただいて、今回もまたとても大きな反響がありました。わざわざ、今週の会場まで来て“ありがとう”って言ってくださった患者の方もいて…。ますます、頑張ろうという気持ちになりましたよ!」と感謝した。手紙の中には、症状のひどさに仕事を辞めざるをえなかったという人もいた。「でも、僕はまだこうしてゴルフが出来るから。それだけでも幸せなことなんだ、と…。最近、つくづくと思うんですよ」。
このオフは、オリンピック選手強化コーチの白木仁・筑波大准教授のアドバイスを受けて、特に内臓周辺の筋肉を強化。「先生にお腹の上に乗ってもらって飛び跳ねてもらったり…。まるでボクサー並みのトレーニングは、シンクロ選手の“準備体操”なんだけど、つらかったねえ~(笑)」。しかしそのおかげで、今年はパワーアップ。現在、ツアーは「全英オープン」日本予選の真っ最中だ。「海外遠征はまだちょっと不安だけど…。久々に、トライしてみたい!」と、どこまでも前向きだ。