アマ・その他ツアー

ツアープレーヤーたちの隠れた才能<藤島豊和>

2008/09/15 09:26
ツアー初優勝の表彰式で、ナイキのスタッフを呼び寄せて感謝の気持ちを述べた藤島豊和(右)。左から2番目に涙をぬぐっているのが、学生時代から藤島を見てきた阿部さん。阿部さんがたまらず漏らした嗚咽をマイクはしっかりと拾い、もらい泣きする人が続出した。

ジャンボ尾崎の美声は知る人ぞ知るところだし、マルちゃんこと丸山茂樹も、いざマイクを握ればプロ真っ青の歌声を披露する。プロゴルファーには歌唱力バツグンの選手が多いが、先週の「フジサンケイクラシック」でツアー初優勝をあげた藤島豊和もかなりのものと聞いた。

その道の“プロ”も太鼓判を押したそうだから間違いない。時は2006年。ひょんなことから藤島は、ダンスボーカルユニットEXILEのATUSHIさんの前で歌う機会があり、その熱唱ぶりは、ATUSHIさんに同グループのボーカルオーディションを受けてみたらと、勧誘されたほどだったという。しかし、試合がオーディション当日と重なったためやむなく(?)断念。ひょっとしたら今頃は藤島も華やかな転身を果たし、メンバーに混じってステージで歌い踊っていたかもしれないと思うと少々残念な気もするが、お誘いを断った甲斐はあった。

このほどプロ5年目のツアー初優勝で、“本業”でもその才能を証明できた。大混戦の最終日はいよいよプレーオフに突入。奇しくもその相手は、歌の練習相手(?)でもあった。東北福祉大のひとつ先輩、岩田寛とは今でもヒマを見つけては、2人してカラオケボックスにこもってマイクを奪い合い、気がつけば朝・・・という日もたびたびあるという。それほど気心を知れた仲でもあるだけに、プレーオフ1ホール目にパー、ボギーで決着をつけた瞬間は多少の気まずさもあったろうが「先輩には申し訳ないけど勝負の世界。同情はしない」と男らしく言い切った。

そして、初めての優勝インタビューでは人目をはばからずに男泣き。しかしそれは、初優勝の嬉しさに感極まって・・・という風ではなかった。インタビュアーに断って、デビュー前からお世話になっているというクラブメーカー、ナイキのスタッフのみなさんを、わざわざテレビカメラの前に呼び寄せて、彼らへの感謝の気持ちをとうとうと語り始めたとき、それまで浮かべていた満面の笑顔がふいにゆがんだ。どんなに成績が悪いときでも、「大丈夫、焦らないで」と言って励ましてくれたこと。クラブや用具に関するどんな無理な要望も、いつでもふたつ返事で請け負ってくれたこと・・・。

これまでに受けた数え切れない恩を振り返りながら、「ほんとうに優しくて、良い人たちばかりなんです」と、繰り返す藤島の目からは、いつしか大粒の涙が溢れ出ていた。そのときにはもう、ナイキのみなさんも感極まってしまい、その中でも一番大きな嗚咽を漏らしたのが、藤島とは8年の付き合いというクラブ制作スタッフの阿部貴史さんだった。その藤島について阿部さんは「人間的にも、非常に魅力ある選手」と、評した。デビューしてすぐのころには、帽子にも収まりきらないようなモジャモジャのアフロヘアでツアーに出場したり、ギャラリーの歓声に楽しいパフォーマンスで応えて盛り上げたり・・・誰にでも好かれるお茶目でひょうきんな性格の反面、熊本県出身の九州男児らしい男気を垣間見せるという。

「いつも僕らに感謝の気持ちを示してくれて・・・。最終日の一件も、以前から“もし優勝できたら阿部さんたちにも表彰式に出てもらう”と言い続けていた。言葉だけじゃなく、有言実行してくれたことからも彼の強い気持ちが伝わってきて、本当に嬉しかった」と、阿部さんは胸を押さえる。また、自宅で応援していた両親には「産んでくれてありがとう」とカメラに向かって照れもせず、感情を素直に表現したスピーチに、会場はほのぼのとした感動に包まれたものだ。

女子ツアーに比べ、男子はトップを張る選手の年齢層がやや高めだったが藤島は、その前週にやはりツアー初優勝をあげた甲斐慎太郎とは同い年。2週連続での20代のチャンピオンの誕生に「僕らより若い選手が活躍すれば、もっと盛り上がる!」とアピールした。40歳の谷口徹に、35歳の片山晋呉、そして初の賞金王を狙う谷原秀人は今年30歳。彼らに続く、次世代のスター候補たちの今後のパフォーマンスに注目だ。