「カッコつけずに泥臭く」宮里藍、視線の増加に調子もアップ
◇国内女子◇サントリーレディスオープンゴルフトーナメント 初日(8日)◇六甲国際GC(兵庫)◇6538yd(パー72)
浴びる視線が増えるほどヒロインは輝く。14年間のプロ生活で、宮里藍はずっとそうだった。もちろん、ラストゲームになる可能性があるこの試合も。今季限りでの現役引退を発表してから、初の出場試合となった宮里は3バーディ、1ボギーの「70」で回り、2アンダーの22位タイ。初日として前年比2倍の観衆を集めたオープニングラウンドで上々のスタートを切った。
小雨の舞う早朝、すでに300人の観衆が来場し、ギャラリーゲートは予定より15分早い午前6時45分に開いた。
宮里の“最後”の雄姿を見ようと、ラウンド前のパッティンググリーン、ドライビングレンジには数百人が列をなした。午前8時24分のスタートから間もない9時の時点で、前年初日の観衆3245人を上回る3426人が訪れた。
ロープサイドに傘の花が開いた序盤、宮里は2年ぶりに対峙したコースを攻めあぐねた。2ホール目の11番(パー3)でバンカーセーブに失敗してボギーを先行し、「1Wのタイミングが合わなかった」と、グリーン上で耐える展開。14番で2.5mのパーパットを沈めてピンチを逃れると、時間の経過、観衆の増加とともに復調気配を見せた。
午前10時の来場者は4773人。その30分後、宮里は17番(パー5)で6mを沈めて最初のバーディを決めた。同11時には5703人を記録し、宮里は直後の2番で5mのチャンスを生かしてガッツポーズを見せた
ラフから残り100ydの3打目をPWで2mにつけた4番(パー5)で、3つ目のバーディを奪った15分後の正午には6339人に膨れ上がり、午後3時半の最終集計では6735人を記録した。
「朝早いスタートでもたくさんの方が足を運んでくれてうれしかった。今までの『頑張れ』という声が(多いのではなく)、きょうは『ありがとう』というのが多かった」。この日の最後のホール、林を抜けて視界が一気に開ける9番で、宮里は目を細めた。平日にもかかわらず、ロープサイドを埋め尽くす大観衆。「日曜日の景色を、木曜日に見られた」。雲間に青空が顔をのぞかせていた。
高校3年生でプロツアーを制覇し、日本ツアー15勝、米ツアー9勝という輝かしい実績を残した宮里といえども、惜別ムードとなるラウンドを前にした感情は「未知の世界」だったという。「自分のゲームへの不安ではなく、ティグラウンドに立ってどういう気持ちになるのかという不安が大きかった。今までとは違う種類。今までと全然違った」。
その緊張感を払しょくしたのは、これまでのゴルフ人生の蓄積にほかならない。日々のルーティンをひとつひとつ丁寧にこなし、準備を整えた。「(スタートの)ティグラウンドに上がると、いつも通りの自分でいられた」。万雷の拍手には、みんなが見たかった宮里藍の等身大の姿で応えた。
同組でプレーした上田桃子はホールアウト後、感極まって目に涙をためた。会場のすべての人が、これまでと違う視線を送る。それでも宮里は「新しい経験を楽しんで、今後の人生に生かせる経験になれば」と揺るがない。「日本で最後の試合になるかはまだわからないけれど、今まで積み重ねてきた自分らしくやりたい。見栄をはったり、カッコつけたりせずに泥臭くやりたい」。
大会前「シンプルに勝ちたい」と言った。その視界にはもちろん、5打差を追う首位の背中が入っている。(兵庫県神戸市/桂川洋一)