“雨中の右プッシュ”で味わった悪夢 吉本ひかる「最後まで諦めなかった」
◇国内女子◇明治安田生命レディス ヨコハマタイヤ 最終日(12日)◇土佐CC(高知)◇6228yd(パー72)
プレーオフ2ホール目、10mのバーディパットを前に吉本ひかるの覚悟は決まっていた。「手で打たずに背中を使って打とう」―。1ホール目で3mのチャンスをショートした。「手、動いてないわって。でも、これも経験だよなって」。もっと苦しい時期を過ごしてきたから、ミスを冷静に受け止めることができた。今度はしっかり打ち切ってカップに流し込んだ。
グリーンサイドで同学年の植竹希望を見つけてあふれた涙は、優勝インタビューで支えてくれた家族について聞かれたときに止まらなくなった。「悪いときも励ましてくれて、感謝の気持ちしかないです」。マネジャーとして帯同しながら、キャディを務めることもある姉・百花さんらへ、素朴な言葉にありったけの思いがにじんだ。
2週連続2位に入った2019年に初シードを獲得。ツアーの未来を担う1998年度生まれの黄金世代の一角として期待を集めた。“悪夢”の始まりは鮮明に覚えている。2021年の「NEC軽井沢72」。雨の中、1番ホールで思い切り右にプッシュアウトした。「そこから左右に曲がるようになって、振れなくなってしまった」。飛距離は200ydを割り込むこともあり、「(なかなかグリーンに)届かないから、パーを獲るのに必死でした」。ほとんど予選を通れなくなり、シードを手放した。
「安易というか、考えが甘かった」と自戒を込めて言う。“感覚派”だった自分を見つめ直すため、コーチに加えて、松山英樹のケアも担当してきた飯田光輝トレーナーにも師事するように。スイングの動きにつなげていくためのトレーニングを重ね、「スイングを分析したり、いまの方がメッチャ、ゴルフのことを考えてますよ」と笑う。
2打のリードを持って出たこの日、最初にスコアが動いた9番はセカンドをシャンクしてボギーを喫した。前半でささきしょうこに逆転を許し、一時は逆に3打差をつけられた。「つらいときこそ、笑顔でプレーしてください」―。前夜、飯田氏から届いたメッセージが頭をよぎった。必死に顔を上げ、後半だけで4バーディを奪ってプレーオフに持ち込んでみせた。
「いつもだったら9番でそのまま落ちていっていた。そこからバーディを獲っていけたのは、いろんな経験をして、たくさん考えてきたからこそ。悪くても戻せる力がついてきたから、最後まで諦めずにやれたのかな」。プロ7年目での初優勝、一度は厚い雲に覆われたゴルフ人生に光が差し込んだ。(高知県香南市/亀山泰宏)