疲労骨折も大スランプも乗り越えて キム・キョンテが復活V
◇国内男子◇カシオワールドオープン 最終日(1日)◇Kochi黒潮カントリークラブ(高知)◇7335yd(パー72)
かつて“鬼”と呼ばれた男の目に涙が浮かんだ。2010年と15年の賞金王、キム・キョンテ(韓国)が3年ぶりの勝利を飾った。3位タイから8バーディを奪ってコースレコードタイ、今季自己ベストの「64」をたたき出し通算20アンダー。故障と不振にあえいだシーズンの終わりに2016年「ミズノオープン」以来のツアー通算14勝目を手にした。
10mを沈めたバーディパットが猛チャージの始まりだった。前半7番(パー5)、エンジンがかかったキムはそこから一気に4連続バーディを奪った。首位争いに割って入り、「このコースで一番嫌いなホール」という12番でカラーから6mを沈めてバーディ。「勝つチャンスが来ている」。久々の感覚が自身の身体を、そして終盤はフィールド全体を支配した。
苦労の始まりは昨年8月、背中の疲労骨折というケガを抱えた。1カ月以上の離脱期間を経て復帰したが、今年2月に同じ個所を痛めた。オフの練習が十分でないまま入ったシーズンで飛距離は落ち、「8Iで打っていたところが5Iくらいで打つようになった」。
ショットへの不安はグリーン上のプレーにも影響した。6月初旬の試合で、パッティングでバックスイングが上がらなくなった。ついには8月の「日本プロゴルフ選手権」で、レギュラーサイズのパターに加え、3Iを抜いて長尺パターもキャディバッグに入れてプレーしたが、同大会からキャリアで初めて7試合連続で予選落ち。島中大輔キャディは「予選落ちがあれだけ続くことが初めてで、パニックになったところもあった」と明かす。
転機は9月、母国で行われたホスト大会「シンハン ドンヘ オープン」のあと。キャリアで初めてメンタルコーチに師事した。韓国人でゴルフには縁遠い人物だったが、キムは「それが良かった」という。「自分は打つ前に決めるのが早い。風が吹いてもそのまま狙いを変えずに打つタイプ。そういうのをやめて、気持ち悪かったらアドレスを解くようにもした」。大スランプを乗り越えようと、過去2度の賞金王も必死だった。
この日夜の帰国便をキャンセルして、次週の最終戦「日本シリーズJTカップ」(東京よみうりカントリークラブ)に向かう。「若い子たちにはショットや飛距離は負けていますよね。だからパターでうまくならないと。でも、コースも1オンチャレンジのホールも増えてきた。ショットも良くなるように」。よみがえった強いハート。もう33歳、されどまだ33歳だ。(高知県芸西村/桂川洋一)