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最前線の開発者、ロック石井氏が語る”ゴルフボールの未来像”

■西海岸カールスバッドを訪ねて

いまでは誰の目にも大きな時代の断層だったことが明らかだ。2000年6月、カリフォルニア州のペブルビーチゴルフリンクスで行われた第100回「全米オープン」。24歳のタイガー・ウッズが、2位に大会新記録となる15打差をつけて圧勝し、そこから翌年の「マスターズ」まで、いわゆる“タイガー・スラム”とよばれる破竹のメジャー4連勝を成し遂げた。

当時、ナイキのボール開発の責任者だったのが、ロック石井こと石井秀幸氏だ。この年、ウッズは初めて同社のソリッドコア3ピースボールを実戦投入した。その圧倒的パフォーマンスは、100年近く続いた糸巻きボール時代の終焉を告げる出来事だった。

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2016年末、ナイキのゴルフ事業撤退を受けて、石井氏はキャロウェイゴルフへと移籍した。現在も開発の最前線に立つ石井氏に、ゴルフボールの未来について話を聞いた。(取材・構成/今岡涼太)

■消えたスタンピングマシーン

カリフォルニア州カールスバッドにあるキャロウェイゴルフ本社の石井氏のオフィスには、ゴルフボールの歴史について書かれた一冊の本が置かれている。新しいボールについての構想を巡らすとき、よくこの本を読み返す。遠い昔から脈々と先人たちが繰り返してきた試行錯誤の歴史。その積み重ねには、現代の問題解決にも通じる様々なヒントが隠されているという。

1848年に天然ゴムの樹脂を固めて作ったガッタパーチャボールが登場した。しばらくしてボール表面の傷が飛距離に関係することが分かると、ゴルファーたちはこぞって傷を自作した。「昔は“スタンピングマシーン”っていうボール表面に傷をつける装置を個人が所有していたんですよ」と、石井氏はうれしそうに教えてくれた。「それって、すごくいいなって思うんです。たとえばゴルフに行く前の日に、翌日のコースや天候を想像しながら作業をする。それってクオリティタイムじゃないですか。スポーツの楽しさにおいて、そういう時間が貴重だなって思うんです」。

1960年代後半から、ゴルフボールは安価に大量生産される時代に入っていった。「昔のゴルフボールはとても高価で、1日に1個とか2個しか作れなくて、みんな大事に使っていた。でも最近はポッと買って、ポッと使って、簡単にそれをなくす。それがボール屋としては面白くない。ゴルフ道具の中でボールは唯一、体から離れていく。スコアを決める一番大事なものだと思うけど、その地位が維持できていないんですね」。ボールを取りまく現状への義憤のような感情がある。寂しさと、もの足りなさがある。

一方で、大量消費がビジネスを成り立たせているという側面も否定できない。「そのビジネスモデルを破壊する必要はないんです。でも、それより上の価値を提供できるやり方があると思う。たとえばカスタムボール。それには、フィッティングやコンサルティングも必要になってきますが、いまのIT時代ならそれもできる」。一人一人に合わせてゴルフボールをカスタムしていく。時間の針を逆に回せば、たしかにそんな時代は存在した。果たして、現代にスタンピングマシーンはよみがえるのだろうか?

■つぶれるのに、反発する

まずは、最先端の現場から見てみよう。2018年3月発売のキャロウェイゴルフの新ボールには、グラフェンという聞き慣れない新素材が使われている。グラフェンは原子1個分の厚さしかもたないシート状物質で、炭素原子が六角形の蜂の巣状に結合して平面方向の強度は世界最高と言われるものだ。

2010年にアンドレ・ガイム博士とコンスタンチン・ノボセロフ博士がノーベル物理学賞を受賞して注目された新素材は、様々な分野での応用が進んでいる。2013年にはヘッド社(オランダ)がテニスラケット、15年にはヴィットリア社(イタリア)が自転車用レースタイヤ、16年にはカットライク社(スペイン)が自転車用ヘルメットにグラフェンを使った製品を発表している。

「これ(グラフェン)がないと、トップ選手が求めているバランスは実現できなかった」と石井氏は言う。世界最高峰のツアー選手たちが実現したいスピン量とヘッドスピードの関係をグラフで書くと、一直線ではなくジグザクな曲線になるという。それは以下のような理由からだ。

【ドライバー】ヘッド自体の低スピン化が進み、ふけて右へスライスしていく球は減少。一方、ヘッドが返り過ぎたときに、低スピンで打ち出しが上がらずに左へ落ちていく球がハイリスク。ゆえにスピン量は増やしたい。
【アイアン】トップ選手はパワーがあり、クラブの入れ方でスピンを増やすこともできる。ボール自体のスピン量が多すぎると、(スピンで戻って)奥ピンに対して打っていけないので、スピン量は抑えたい。
【ウェッジ】いつでもスピン量は多い方がいい。

この要求を実現するためにグラフェンが導入された。ボールはインパクト時につぶれることによってスピン量を低減できるが、つぶれるとエネルギーロスが発生して高初速を実現できず、ときには割れることもある。だが、大きく軟らかい(つぶれやすい)センターコアを、反発力を維持する硬いグラフェンによる2層目のコアが包むことで、その両立を高いレベルで実現したという。

キャロウェイゴルフで2004年からグラフェンの研究開発に携わるビジェイ・チャバン工学博士は「これだけ早く商業化されるとは思わなかった」と述懐する。試作とテストの地道な作業の繰り返し。それでも、現場のニーズがこの新素材の市場投入を加速させたのだ。

前作と比べると、センターコアは直径で21%、体積で79%大きくなっており、その差はボール断面図を比較すると一目瞭然だ。「軟らかいのにフルショットのスピン量を落とす、ということは、今回の構造じゃないとできなかった」と石井氏。軟らかいということは、球をつぶす力が少なくなるミスショット時にも、そのマイナス影響を最小限に食い止めることができる。魔法ではなく、これがグラフェンという最先端素材の実力だ。

だが、ボールは1種類だけではない。微妙に性能の違う中からどれを選ぶか?という視点も、忘れてはならない大事な要素だ。

■人と道具のつながりを生む

今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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