6度目出場の松山英樹 オーガスタで活きる経験力
◇メジャー第1戦◇マスターズ 事前情報(5日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7435ヤード(パー72)
開幕を翌日に控えた5日(水)、午前中からオーガスタに降り注いだ雨は次第に勢いを増した。竜巻の危険性から、パー3コンテストは途中で中止になり、午後2時前には選手も会場から退去するよう指示された。松山英樹は結局コースに姿を見せず、当地で打ち込むこともできなかった。
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その席に腰を下ろした松山は、周囲を見るなり口元に笑みを浮かべた。開幕2日前の4日(火)、午前11時半からの公式会見に出席したときのこと。今年、リニューアルされたオーガスタナショナルGCのメディアビルの一角にある記者会見場で、彼は思わず目を丸くしていた。
半円型の議会場を思わせる巨大なインタビュールームには最新鋭のシステムが搭載された。取材パスを持ったメディア関係者が座席に腰かけると、各人を感知して、どこの誰が入室したか一目で分かるという。司会と選手が構える壇上の机にはタッチパネル式のモニターがあり、質問した人物がすぐに特定できる。
この技術を目の当たりにした松山は思わず「(マスターズは)お金、持ってますね…」と言って周囲を笑わせた。「選手が座っているところから、記者の名前まで出るんで面白かったですよ」。初めてマスターズに出場したのは6年前の2011年。当時から公式会見に出席し、以前の深緑のメディアビル、内部の会見場もよく知っている。この2月に25歳になったばかりだが、近年のオーガスタへの知識が豊富な選手と言って間違いない。
9試合で5勝を挙げた昨年秋から今年初旬の勢いは、春先に衰えた。今年は特に、ショットが本調子でないままティオフを迎えそうだ。だがもちろん、状態が悪くて勝った試合が何度もある。加えて、ここで頼れるのが過去5年で培ってきたオーガスタでの経験だ。
「最初の年は何も分からずに来た。分からないまま、怖さも知らずにやった」。その結果がアジア出身選手として初のローアマチュア獲得の快挙。「2回目は分かってきて、それに対応する力がないと思った」と、翌年からはコース内の危険エリアも察知できるようになったと同時に、恐怖心が芽生え始めた。
そして今は、その恐怖心との付き合い方も心得てきたところ。いずれもトップ10入りした直近2大会。「去年(7位)、一昨年(5位)は絶好調のプレーではなかったが、良い流れでできて、ああいう形になった。毎年来て、経験は活きている。『ここに行ったらいけない』、『ここに落とせばこうやって寄っていく』というのが分かる経験は、すごく大事だと思う」。グリーンジャケットとの距離を年々縮めてきた実感は、わずかでもあるはずだ。
マスターズウィークに入ってから2度の大雨が降り、グリーンのコンディションは未知となった。大会初日は日中10℃台の気温と肌寒くなり、暴風が吹き荒れる予報が出ている。誰もが頭を悩ますであろうコンディションで、松山のプレーは果たして―――。最新システム搭載のインタビュールームで、その姿を待ちたい。(ジョージア州オーガスタ/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw