難解で魅力的?岩田寛の頭の中ってどうなってるの
優勝争いの末に4位となったペブルビーチで、岩田寛は海外メディアから「なぜ、ここで良いプレーができているのか?」という質問に、ぶっきらぼうに「景色がいいから」と答えていた。何度もそう答えるし、確かにラウンド中はよく海を眺めていた。なので、最終日のラウンド後に改めて確認してみた。景色は本当にプレーに好影響を与えていたのか?すると、岩田はいたって真顔でこう答えた。「あれは冗談です」――。
ゴルフはメンタルなスポーツだと言われる。実際、緊張したり、力んだり、集中力が散漫になったりしただけで、思いも寄らぬショットが出ることは経験者なら誰もがご存じだろう。だからこそ、選手の内面をよく知ることは、そのプレーを理解する助けにもなるはずだ。
先日、こんな夢を見た。とあるゴルフ場のとあるパー3ホール。屈指の撮影ポイントとなっていて、ティグラウンド周りには大勢のカメラマンが集まっていた。そこに岩田がやって来た。カメラマンたちは待っていましたとばかりに、一斉にシャッターを切り始める。岩田は、おもむろにキャディバッグからクラブを抜くかに思えたが、なぜか手にしたのはギター。そして、ふざけてギターをかき鳴らすような仕草をすると(多分、現実には絶対しない)カメラマンたちは喜んでシャッターを押しまくった――。
それを少し離れたところで見ていた自分はこう思った。あ、これは岩田流のジョークなんだ。“俺はロックスターなんかじゃないんだ!”っていう皮肉な心の叫びなんだな…と。夢なので、残念ながら真偽のほどは分からないが。
もともと、メディアの前で饒舌ではない岩田だが、PGAツアーに来てからは、ほぼ連日コメントを求められるようになった。感情の波が激しく、ときに荒れ狂う大海原に漂う小舟のような理性は、記者たちの質問に答える岸辺を見つけられないこともある。
昨年挑戦したウェブドットコムツアーの入れ替え戦では「怒り過ぎて、頭が痛くなった」ともこぼしていたし、ミスショットにクラブをへし折ったこともある。岩田にとってラウンド中の感情コントロールは、いまにいたるまでの課題の1つだ。
「いつも反省しています」と岩田は言う。感情に負けてクラブを折ってしまった後は、メーカースタッフに丁重に謝りに行く。ホールアウト後に不機嫌なまま対応をしてしまったら、そのことをずっと気に掛けている。岩田の感情の幅を“1岩田”と定義するなら、それは常人の10倍か20倍か、そんな途方もない幅になることだろう。
ペブルビーチのプロアマでは、同組選手のパートナーが米国の水回り商品大手KOHLER社のCEOであるデビッド・コーラー氏だった。昨年「全米プロゴルフ選手権」が行われたウィスリングストレイツは、ウィスコンシン州に本社を構えるKOHLER社のお膝元。コーラー氏はその大会委員長を務めた人物だ。コーラー氏は、岩田が海外メジャー最少スコアタイとなる「63」を出したことももちろん覚えていたし、ペブルビーチで予選ラウンド3日間をともに回ってそのプレーに大いに感銘を受けていた。
「彼が腹を立てたのを見たのは1度だけ。でも、それはかなり自制したものだった。人それぞれ違うし、彼の情熱や競争心を見るのが好き。彼はとても尊敬できるし、我々にもとても親切にしてくれた」とコーラー氏。「彼の株を買えるなら、ぜひ買うね!」とビジネスマンらしい尺度で高評価を与えた。
難解で不可解な印象がありながら、一度ハマると抜けられない魅力がある岩田ワールド。これからも少しずつ、のぞいていきたい。(カリフォルニア州パシフィックパリセーズ/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka