欧州ツアーが日本上陸か? オーガスタ会談で“ソコアゲ計画”を提案
日曜日の昼下がり、ロンドン市内には濃いブルーの空から優しい陽光が降り注いでいた。3月22日、自ら待ち合わせ場所に指定した瀟洒なフレンチビストロのテーブルに腰を据えた欧州ツアーのジョージ・オグレイディCEO(最高経営責任者)は、申し訳なさそうに、素早く、携帯端末に届いたメールをチェックした。
「この素晴らしい天気! ヨーロッパのほとんどの場所がこんな陽気だというのに、マデイラだけは大雨なんだ。島の海沿いは大丈夫だけど、ゴルフ場は山の上にあるからね。今、大会をキャンセルしたという連絡がきた――」。
欧州だけでなく、アフリカ、中東、アジアまで。窓の外の穏やかな情景からポルトガル・マデイラ島の悪天候を想像するのはちょっぴり難しい作業だが、これが世界各国を転戦する欧州ツアーの日常だという。
オグレイディCEOは、112年ぶりとなるゴルフ競技のオリンピック復帰に尽力し、また、欧州ツアーではCEOから国際関係担当顧問への職務変更が発表されたばかりだった。聞きたいことは山ほどある。少し遅めのランチをともにしながら、じっくりと話を聞いた――。
世界中で試合を開催している欧州ツアーが、日本ツアーとの共催試合を実現できずにいるのはナゼか? その理由の1つには「開催時期の問題がある」という。12月に南アフリカで開幕する欧州ツアーは、中東、アジアを経て5月中旬に欧州へと上陸する。そして10月末からファイナルシリーズにかけて再び、香港、中国へと遠征する。
「日本ツアーも成功しているからね」。選手たちの移動を考慮すると、日本開催は2月、3月頃、もしくは10月、11月頃が日程候補だが、日本ツアーは4月(以前は3月)の「東建ホームメイトカップ」を1993年の第1回大会以来、国内の年度初戦と位置づけられており、それ以前に国内試合を入れる調整は難しい。また秋は日本ツアーが最も盛り上がりを迎える時期で、そこに試合を組み込むこともまた容易ではない。「良い日程が見つかれば、いつか実現するだろう」というが、その言葉にはどこか冷めた思いも感じられる。
ほかにも、賞金レベルの差(日本の最高は総額2億円、欧州は総額3億円超が多数)やテレビ放映権の処理、外国人の受け入れ体制…と懸案は数えだせばキリがない。かといってそれが解決不可能かといえばそんなこともないはずだが、今回はその詳細について触れずにおく。ここ数年、JGTOと折衝を行ってきた欧州ツアー幹部たちも、今は視点を変え始めているからだ。
オグレイディCEOは言う。「きっと日本にも同じような言い方があるだろう? ものごとを底辺から作り上げていく、ということなんだ」。
欧州ツアーは今、内部で“ソコアゲ計画(Sokoage Project)”と呼ばれている戦略を、対日本、そして対アジアに向けて進めている。ゴルフ競技の五輪復帰をきっかけに、「2020年の東京オリンピックで活躍できる若手選手を育てよう!」いう旗印のもと、下部ツアー(チャレンジツアー)での共催を推し進めようというものだ。
「チャレンジツアーに関しては、日程の自由度が高い」と、オグレイディCEOもこの計画に乗り気だ。具体的には、春先に日本で2試合の共催試合実現を目指しているという。同時に韓国や東南アジア各国にも働きかけを行っていく。現時点でも、欧州チャレンジツアーはポルトガル、ケニア、スペイン、トルコ、デンマーク、オーストリア、チェコ、スイス、ベルギー、フランス、スコットランド、ドイツ、スロバキア、北アイルランド、フィンランド、カザフスタン、イタリア、中国、オマーン、UAEの20カ国を転戦しているが、ここに日本や東南アジアの国々を加えて、世界で活躍する若手選手育成の場にしよう、というのがその構想だ。
欧州ツアーの文化に言及しないと、この発想は理解できないかもしれない。
「ヨーロッパだけをとってみても、フランス、スペイン、ドイツと各国が全部違う文化を持っている。みんな考え方も違う。アフリカやアラブ諸国、その他世界中の国々もそう。だから、我々はお互いの文化を理解して、それぞれの考え方に適応して、ともに働かないと成功できないんだよ」。
グローバルな世界において、自国中心の一極化を目指す米国と、それぞれの国や文化を尊重しながら手をつなぐ欧州という構図は対照的だ。飛躍して聞こえるかもしれないが、近年の「ライダーカップ」での欧州優位も、もしかしたら、オグレイディ氏が語るこのような相互理解の文化に依拠しているのかと思ってしまう。
モロッコで開催された「ハッサンIIトロフィー」の期間中、欧州ツアー幹部からJGTOの海老沢勝二会長に宛てて、このプロジェクトを含む提案書が送られた。直接会談は「マスターズ」期間中に会場のジョージア州オーガスタで行うことになるという。
インタビューの途中、「もし、あなたが日本ツアーのCEOだったらどうするか?」と、いささか意地悪な質問をぶつけてみた。オグレイディ氏は戸惑った表情を浮かべ、「日本はトーナメント構造が違うし、代理店やテレビ局はやり方もマーケットも知っている。それを外からとやかくいうことは出来ないよ」と言葉を濁した。「我々は、昔は英国ツアーだったけど、ヨーロッパに拡大せざるを得なかった。でも、日本はその必要はないと思う」とも言った。「ただ、1つだけ言えること。それは、日本人選手が世界で活躍することが重要だ。メジャー大会で優勝することは大きな意味を持つだろう――」。
直近ではピーター・ユーラインやブルックス・ケプカといった米国の若手選手が、欧州チャレンジツアーを踏み台として巣立っていった。多種多様なコースや文化を経験したことで成長できたという話も聞いた。東京オリンピックまであと5年。国際経験の少なさが日本人選手の課題とされている今、欧州ツアーから提案される“ソコアゲ計画”は傾聴に値するだろう。(編集部・今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka