2014年 ザ・メモリアルトーナメント

池ポチャした16番 英樹と遼を隔てるもの

2014/06/03 16:05
16番でドロップ後の第3打を放つ松山英樹。この違いは技術なのか、メンタルなのか。

松山英樹の米ツアー初優勝から一夜明けた月曜日、石川遼はミュアフィールドビレッジGC近郊にあるゴルフ場で、黙々と1日36ホールの全米オープン地区予選を戦っていた。ギャラリーもほとんどいないコースでは、普段見慣れない短パン姿のPGAツアープロ達が、パインハースト行きの切符を掴もうと一発勝負に挑んでいる。前日までの華やかな世界から一転、そこには勝つか負けるか、ただそれしかなかった。

2007年に15歳アマとして史上最年少でツアー優勝を果たし、09年には国内ツアー賞金王の最年少記録を塗り替えた石川。13年からは米ツアーにフル参戦し、常に同世代の一歩先を歩いてきた・・・はずだった。

だが、松山は末脚鋭い怪物馬のように、大外から一気に石川を抜き去った。10年に日本人として初めてアジアアマチュア選手権を制すると、翌11年に出場した「マスターズ」では日本人初のローアマチュアを獲得。そして迎えた14年、ジャック・ニクラスの眼前で日本人として4人目かつ最年少で、PGAツアー制覇を成し遂げたのだ。

その日、松山より4時間ほど先にホールアウトしていた石川は、松山の優勝争いをテレビで観ていた。15番でバーディとし首位に立った松山だったが、続く16番(パー3)でティショットを池に入れてダブルボギー。だが、このティショットこそ、石川をうならせたという。

この日、16番のピンポジションは左から7ヤードで、右手前から左奧へと細長いグリーンの手前にはえぐるように池が迫っている。松山の池ポチャを見た同組のアダム・スコット(オーストラリア)はグリーン右奥へと外したが、これこそある意味セオリーと呼べる攻め方だった。

石川が解説する。「多分、英樹のはミスショットなんだと思うけど、優勝を狙っていればひとつ大きめのクラブ(5I)で奧のラフに行ってもパーを獲れればいいなという感じでやるところを、6Iでバーディを狙ってくる。ピンの右5~6メートルにつけて、あわよくばというバーディをイメージしていたと思うけど、あの状況でそれをなんの戸惑いもなくイメージできる…」。それが松山の自信であり、完璧を求める姿勢。それが、今の自分に欠けているもの。

「僕は、狭い方(ピンの左サイド)につけてバーディだったんですけどね(笑)」と付け加えた石川だったが、自分と松山では状況が違ったことは百も承知だ。「あの状況で、5Iを打ってオーバーしたら、自分が上手いのか、下手なのかが分からない。6Iで打って良いショットを打てるのか、池に入れてミスをするのかで、上手くなったのか、もっと練習しなくちゃいけないっていうのが分かってくる。5Iで打つのと6Iで打つのとでは、そこに生まれてくるものが変わってくる」。結果にこだわらず、常に理想のショットを追求することに挑む石川にとっては、まさに象徴的な1打に映った。

当の松山は「右からの風が来ているのは分かっていたけど、ミスショットで風の影響を受けて池に入ってしまった」とさらりと言った。あのショット以外の選択肢など、まるで微塵もなかったかのようだ。技術以上に今の2人を隔てるのは、繊細に見えて越えがたい、そんな心の問題なのかもしれない。(オハイオ州ダブリン/今岡涼太)

■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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