メジャー最少「62」に立ち会った日本人女性 全英オープンで阿蘇紀子競技委員が奮闘
◇メジャー最終戦◇全英オープン 最終日(19日)◇ロイヤルバークデールGC(イングランド)◇7223yd(パー70)
全英オープン第2ラウンドで、ルーカス・ハーバート(オーストラリア)がメジャー最少「62」をマークした。その歴史的ラウンドを陰でサポートした日本人がいる。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)で競技委員を務める阿蘇紀子さんだった。最終18番でティショットを右に曲げたハーバートから、救済の処置について助言を求められた。「良いゲームはルーリングがないものなんです。あれはハーバート選手の1つ目でした」
競技委員は、ルールの適用やトラブルの裁定、プレーの進行の管理などを担う大会運営の要だ。全英オープンでは主催のR&Aが各国のゴルフ団体から競技委員を招へいする。阿蘇競技委員に招待メールが届いたのは2月16日だった。これまで競技委員として女子メジャー12大会をサポートしてきたが、男子の大会は今回が初めて。「AIG女子オープンだと思っていたら、全英オープンだったので驚きました」。すでに年間スケジュールは決まっていたため、すぐに小林浩美JLPGA会長に相談。「ぜひいろんなものを見て、勉強して、吸収してきてほしい」と背中を押され、初めて世界最高峰の舞台に臨んだ。
全英オープンは、各組に1人の競技委員が同行する唯一のメジャー。世界中から集まった55人のルールのスペシャリストが大会を支える。月曜日に現地入りし、開幕まで何度もコースを歩いて確認。過去最多となる30万6000人が来場したことからも分かるように、設営規模は女子メジャーや国内ツアーよりも遥かに大きい。それらに対応するA4用紙3ページにも及ぶローカルルールを頭に叩き込み、本番に備えた。
大会期間中は、毎日担当組が割り振られる。ハーバートの組を担当した第2ラウンドでは午前7時半頃にコース入りし、トランシーバーなど同行用具を受けとって準備を進める。ローカルルールのペーパーを読み返し、ストレッチを済ませてスタートティへ。18ホール終了後には、その日に発生した裁定内容をパソコンやスマートフォンから入力する。選手名、適用規則、ホール、状況など、すべてのルーリングが大会関係者で共有されるシステムとなっており、初日だけでも103件の裁定が記録されたという。
今回は日本から3人の競技委員が参加し、女性は阿蘇競技委員ただ一人だけだった。商社勤務だった父の仕事で幼少期は米アラスカ州や日本を転々とし、コロラド州立大卒業後に本格帰国。千葉県・袖ケ浦CC新袖コースで研修生を経て2000年にプロ入りした。ツアー優勝には届かなかったものの、2007年には不動裕理と優勝を争い2位に入る活躍も見せた。2010年の現役引退後は通訳などの仕事を経験し、2012年から競技委員の道へ。「私はあまりルーリングを呼ぶタイプではなかったんですけど、助言を求めたときに“なんか面白そうだな”と思ったんです」と転身のきっかけを明かす。
競技委員としては、2019年「AIG全英女子オープン」で渋野日向子、2021年「全米女子オープン」では笹生優花の優勝にも立ち会ってきた。世界の舞台で得た経験を、日本ツアーに還元する使命も負う。理想とするレフェリー像は、実にシンプルだ。「月並みですけど、やっぱり競技がどの選手にとってもフェアであることですね。一つひとつのルーリングを、そつなく、正しくこなす。選手のそういう役に立てればなと思っています」。ブライソン・デシャンボーの「2罰打騒動」でも注目を集めた第154回大会。最古のトーナメントを陰で支えた日本人女性レフェリーがいた。(イングランド・サウスポート/中村文香)