「メダルのためのゴルフ」から 松山英樹がリスタート初戦で見せた変化
◇米国男子プレーオフ第1戦◇フェデックスセントジュード選手権 最終日(18日)◇TPCサウスウィンド(テネシー州)◇7243yd(パー70)
1カ月に及んだ欧州遠征半ばの7月下旬、松山英樹は頭の中を掃除した。2週後に控えていた「パリ五輪」に向け「全英オープンが終わった瞬間、切り替えた」という。「何がなんでもメダルを獲る。そのためのゴルフをする」――。彼方にある理想を追い求めてきたキャリアで、自分のため、何より日本のゴルフのために結果にこだわると決意した。
松山の頭脳には思い描くスイングや、ショットの弾道のストックが数多くある。昨年、黒宮幹仁コーチがチームに加わってからは、質がさらにブラッシュアップされたと言っていい。その中から、パリではあえて現実的な手法を選んだ。
「オリンピックで、スコアを作れる可能性が一番高い“引き出し”、あまり開けたくないところを開けた」。冒険心を捨てて、リスクを限りなく少なく。目の前の好結果には直結する可能性が高いが、上達や、成長にはつながりにくいと考えるゴルフ。普段は封印するプレースタイルを選び、メダル獲りに全精力を注いだ。
2週後のプレーオフシリーズ初戦。松山は米国で再び成長と理想を求め始めた。初日からさえまくった新しいパター(スコッティキャメロン クラフツマン プロトタイプ)の存在は、会場でも注目された。フロリダの自宅に山積みになっているコレクションから、引っ張り出してきたモデル。レアなヘッドに現地の話題も集中したが、そもそも松山はこのパターについて「ヘッドの形で難しい、やさしいどうこうはないかな」と説明していた。
「五輪でやったことについて一人で考えたんです。もらうアドバイスに対して思い切ってやってみた。今まで使っていたことがないライ角とシャフトの長さ。どうやって打ちたいかを追いかけたときに、これ(で打つこと)が一番やりたいことに近くて、自分のパッティングが良くなるんじゃないか…と」。シャフトが約半インチ長いこのパターに求めたものは、「入る」結果はもとより、理想のストロークの実現だった。
「(黒宮コーチに)映像では『良い(打ち方)』と言われている。でも結局は自分がグワーッとゲームに集中していったときに、しっかり打てるかどうか。何も(プレッシャーが)ないときに打って、入っているだけじゃ使えない」。ただ、入ればいい、まっすぐ飛べばいいという次元で松山はクラブやスイングを考えない。最終日、大逆転負けの窮地にいた17番、8mのバーディパットを「集中して、無心で」打ってPGAツアー通算10勝目をつかみ取った。理想を求めつつ、極限の状態で導いた最高の結果はまた未来につながる。
理想に反したスタイルで目標を達成したパリ。メダル目的のゴルフはしかし、松山が改めて自分を見つめ直すきっかけになったようでもある。「(開けたくなかった)引き出しを使ったことで良い部分もある」と改めて思えた。「自分のゴルフをどうしていきたいかという理想を求めながら、オリンピックでやった全然違うことも、調整しながらちょっとずつ取り入れていく。ここから、どうしていくかだよね」。銅メダルは少なからず、次の進化の好材料になっていた。(テネシー州メンフィス/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw