松山英樹の非凡さはココにも トレーナーと二人三脚のコンディショニング
◇米国男子プレーオフ第1戦◇フェデックスセントジュード選手権 最終日(18日)◇TPCサウスウィンド(テネシー州)◇7243yd(パー70)
「パリ五輪」の後の窃盗被害により、松山英樹と遠征をともにする早藤将太キャディと黒宮幹仁コーチは先週、日本への一時帰国を余儀なくされた。プレーオフシリーズの大事な初戦。田渕大賀キャディを急きょ加えたチームで、せわしなく動いていたのが須崎雄矢トレーナーだった。
昨季の初めから松山の身体のケアを担当し、五輪はもちろん普段から米ツアーの試合に帯同している。今週は宿舎でのマッサージやトレーニング指導のほか、コースではスイング撮影をはじめとする練習の補助役も担った。
松山の1つ年下の31歳。実家は香川県で整体院を営む。物心ついた時から、施術後に患者さんから感謝される父の背中に憧れた。柔道整復師、鍼灸師の他に、准看護師の資格を持ち老健施設で3年間の臨床経験を持つ。専門的な知見を活かして現在の職に就いてからは、アームレスリングやバスケットボール、サッカー選手らの肉体もみてきた。
プロゴルファーの身体を触ったのは松山が初めて。世界の第一線で戦ってきた肉体の強さやしなやかさはもちろん、「自分の身体について詳しく、よく知っている」ことに驚いたという。「体の動きがクラブの動きにどう連動するか。松山プロは常に考えている」。素人の知識では及びもつかない筋線維にまで神経を尖らせ、コンディショニングに必死な毎日だ。
今週は連日、腰に痛みが出た。2日目の夜、原因を探っていると、松山の考えは体内の“ろっ骨のポジション”に及んだという。「アスリートの中にはフィーリングを重視して、ただガムシャラな選手もいますが、(松山は)普通の人が妥協するところまで、気になって仕方がない。だから、ろっ骨一本の位置まで突き詰める。2人で謎解きをしているような感じです」
チームに加わった昨シーズン、松山は前年発症した首痛の解消に時間がかかり、2014年の本格参戦から10年目にして初めて最終戦「ツアー選手権」進出を逃した。「9年連続でやってきたことを、途切れさせてしまったのは申し訳ないと思った。体の状態がもっと良ければ…」と、須崎トレーナーは悔やんでも悔やみきれない。
2月「ジェネシス招待」で2年ぶりに優勝した時、改めて気づいたことがある。「リビエラCCでは痛いところがどこにもなかった。松山プロは身体に問題がなければ、良いスコアを出せるんです」。パリでもそうだった。無事にティイングエリアに送り出せるか否か。責任は日々変わらず重い。
次週の第2戦「BMW選手権」(コロラド州キャッスルパインズGC)、最終戦「ツアー選手権」(ジョージア州イーストレイクGC)もタフな戦いは続く。優勝して、ホッとひと息…つけるはずがない。(テネシー州メンフィス/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw