年を取れば遅くなる?違います…シニア選手に学ぶプレーファストの極意
◇国内シニアメジャー◇TSUBURAYA FIELDS HOLDINGS ULTRAMAN CUP 2日目(4日)◇イーグルポイントGC(茨城)◇7102yd(パー72)
「9ホールは2時間10分で回りましょう」――。大多数のエンジョイゴルファーは、あらゆるコースでこの類いの掲示を見たことがあるはずだ。同伴競技者や後続の組に迷惑をかけないようにラウンドするのは、プレーヤーとしての務め。プロツアーでも進行上の目安として制限時間が設けられている。
開催会場が毎週違うため、コースの長さや性別の違いを考慮してタイムテーブルが決められる。今週の男子レギュラーツアー「ACNチャンピオンシップ」ではアウト9ホールを2時間14分、イン2時間16分の計4時間30分で設定。女子「スタンレーレディスホンダ」はハーフ2時間半の計5時間に定めている。50歳以上の選手によるシニアはアウト・インともに2時間27分、合わせて4時間54分を見込んでおり、差はさほどなさそうだが…。予選ラウンドは通常、レギュラー男女が各組3人なのに対し、シニアは4人で回るのだ。
国内シニアツアーでは4サムにもかかわらず、2時間余りでハーフを回ってくることも珍しくない。日本プロゴルフ協会の競技委員は「シニアの選手は歩くのも速い。(若手の多い)プロテストは遅い傾向があります」と話す。テレビ中継がある場合は急かすのではなく、放送時間が余らないよう、あえて進行を遅らせるケースすらある。
シニアの選手はなぜプレーが速いのか。今大会のアドバイザーでもある67歳の渡辺司は「僕らはね、長年やっていると分かってくるんです。(打つ前に考える)理論やルーティンが“無意味”だって」と笑う。良いショットを打ちたい、ボールをできるだけピンに近づけたい、カップに入れたい…。思いはどの世代とも同じでも、準備に長い時間をかけない。
「若い時は経験不足なんですよ。『もっと良い方法があるんじゃないか』と考える。でも、僕らは頭から『これもいらない』、『あれもいらない』と排除して、残ったものだけでゴルフをやる。若い子たちはそうし切れない。それにレギュラーツアーは今、(選手の)入れ替わりが激しい。経験が増えて、(いらないものを)排除できる頃には試合に出られなくなる。特に女子はそうでしょう」
打つ前に考え、悩み、迷う。「それは向上心の表れだから否定する気はない」と渡辺は言うが、見過ごせない面もある。ツアーや大会があらゆる対策を講じても、改善が見られない一部の選手については、向上心の一言で済ますわけにはいかない。そういったスロープレーヤーについては、結局のところ「段取りが悪い」と断じる。
「素振りは同じ組の選手の邪魔にならないように(あらかじめ)やればいい。待っている間に残りの距離、高低差や風を読む。(アドレスの直前に)8番で打つか、9番で打つか…という最後の決断だけを残しておく。前の選手が打ってから、ヤーデージブックをポケットから取り出すなんて、そんなバカな話があるか(怒)」
トップ選手が海外を目指すのが当たり前になった時代。67歳の目には若手のプレーが「球を打つ技術はもう本当にうまい。僕らが若かった頃に比べたらもう別世界」に映る。テクニックのレベルアップに目を見張るからこそ、ペースの問題は余計に気にかかる。
プレーファストはゴルフのマナーではなく、ルール。「子どもの頃にタイムオーバーしたら、全部ペナルティにすればいい話」と少々極端に言うのは、「良いスコアを出すのと同じくらい、スムーズにプレーすることはゴルフにとって大切」だから。「コーチと言われる大人は、良いスコアを出すための情報は子どもたちにたくさん入れるが、スムーズなプレーをするためにはどうすべきか、という情報を入れているだろうか」と次世代のゴルフ界にメッセージを投げかけた。(茨城県阿見町/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw