ゴルファーの娘へ 事件のプロの想い
爽やかな緑に包まれた高原の鳴沢GCで行われている国内女子ツアー「大東建託・いい部屋ネットレディス」の会場で、テレビで見慣れた顔を目撃した。日本テレビ系列のワイドショー「スッキリ!!」でお馴染みのレポーター・阿部祐二さんだ。
事件でも起きたのか?
答えは“個人的にはイエス”だろう。今週、阿部さんの一人娘で聖心女子大3年の阿部桃子(20歳)が、主催者推薦で初めてプロトーナメントに出場したのだ。阿部さんの妻は、女子プロゴルファーの磯村(旧姓)まさ子さん。桃子がゴルフを始めたのは6歳からと早かった。
結果を先に言ってしまえば、初日「80」、2日目「84」で通算20オーバー。105位で予選落ちした。「とっても悔しい。自分の力を発揮しきれずに終わった」と肩を落としたが、彼女の置かれた環境を考慮すれば、残念という言葉だけでは片付けられない。
祐二さんは言う。「今の風潮を否定するようだけど、ゴルフだけをやるというのには反対です。昔、タイガー・ウッズが石川遼に『他にやることがあるだろう』って苦言を呈したのが印象に残っている。娘には大学で友達とか先輩後輩の人間関係を学んでほしい。そのかわり、大学を出たら全面的にサポートします。資金は取ってある(笑)」。
桃子の通った聖心女子大付属の中学・高校では、土日以外の公休は認められていなかった。つまり、日本ジュニアや日本アマなど、平日に行われる公式なゴルフ競技には出場できなかった。大学に入り、ようやく土日以外の活動も認められるようになったという。
「大学を出てからでも(プロで)通用するというモデルケースになってほしい」と祐二さんは熱を込めた。
当の桃子はどう感じているのか?
「同年代の子たちは、平日に試合に出て経験を積んでいく。私は遠回りをしているなということは感じています。でも、学校に行ってほしいというのは両親の願いだし、それを終えてからというのもそう。卒業してからプロテストを受けたいです。1回で受からなくても、許される限り何度でもチャレンジしたい」
筆者が思い出すのは、松山英樹に東北福祉大進学を勧めた明徳義塾高校ゴルフ部の高橋監督の言葉だ。「あそこ(東北福祉)は冬があるでしょう。冬になるとゴルフができない。そういう時期が大事だと思うんです。ひもじい思いが選手の気持ちを強くする――」。
初めてのプロツアーは「すごく楽しかったし、またやりたいなと思った」と振り返った桃子。16歳のアマチュアがリーダーボードを賑わす陰で、前日まで専攻する哲学のレポートを書いていたという大学生の初挑戦が、静かに幕を下ろした。(山梨県鳴沢村/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka