日本プロキャディの草分け、今井哲男氏が引退へ
先週の「大王製紙エリエールレディス」では古閑美保、米山みどりの引退が大きな話題をさらったが、今週のツアー最終戦「LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」でも、ひっそりとプロトーナメントの会場から身を引く人がいる。
今井哲男さん、49歳。今週、森田理香子のバッグを担ぐ今井さんは、1996年、その頃まだ日本人でプロキャディと呼ばれる人が居なかった時代に、キャディを始めた。「選手からも言われていたんです。専門でやっている人がいないので(プロキャディが)欲しいと。そこそこ需要はあるだろうという手応え、青写真はありました」と当時を振り返る。ミズノのプロ担当としてトーナメント会場に出入りしており、プロキャディとしての動き方はだいたい分かっていたという。
米山剛、川岸良兼、鈴木亨、中嶋常幸・・・。多くの選手を陰で支えた今井さんだが、キャディとしての初優勝は意外にも遅く、木村敏美と組んだ2004年の「新キャタピラー三菱レディース」でようやく勝利の味を知る。「02年、03年と優勝を逃していて、3年越しで勝てたというのもあったし、うれしかったですね」と懐かしそうに目を細めた。
「キャディは良いプレーを引き出すこともできるし、悪いプレーを止めることもできる。選手の調子が良い時はほっといていいけど、悪いときに頼りになるのが良いキャディ」という今井さん。「いつも落ち着いていて慌てる様子がないので、私も自然と落ち着きますね」という森田の言葉がその信念を裏書きする。
今井さんがキャディを始めてからわずか16年で、いまやハウスキャディの方が珍しいという時代。多くの若いキャディが会場に出入りするが、「もっと自分たちの将来のためを考えて行動してほしい」と、彼らにメッセージを送る。「今が楽しいだけじゃなく、ゴルフ業界が無くなったら自分たちの仕事も無くなるってことを念頭において、服装とか、ものを食べる場所とか、小さいことの積み重ねを大事にしてほしい」。勘違いしているキャディもいるよねと、あえて苦言を呈するのは、自分も年配の人たちに言われてきたから。「今は注意して指導する人がいないから、悪いことか良いことなのか分からない」と、一抹の不安を抱えていることも確かだ。
そしてもう一つは「もっとチャレンジしてほしい」ということ。今井さんは単身アジアンツアーやPGAツアーの会場へと渡り、現地で選手に話しかけ、その週の職を得るようなこともやっていたという。「そうやってチャレンジすれば必ず得ることはあるからね」。これだけ国際化が進んだゴルフ界、選手だけでなく海外ツアーで活躍する日本人キャディというのも、確かに見てみたいものだ。
最後に伺ったのはキャディとしての座右の銘。「うーん、簡単には思い浮かばないけど・・・」と言いながら出てきたのは「やっぱり我慢かな」という言葉。「真摯(しんし)に取り組めばどんな仕事でも辛いと思うけど、継続すること、我慢することが大事。キャディをやっていてもほとんどが大変なことばかりだけど、たまに良い事があるから続けられるんだと思う。やっていて良かったと思うのは1~2割かな」。たくましく日に焼けた顔が、すがすがしかった。(宮崎県宮崎市/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka