アン・ソンジュ、強さの秘密
優勝を決めた18番グリーン。1万人を超える大ギャラリーが詰めかけた「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」の最終日、アン・ソンジュは表彰式のスピーチで流暢な日本語を披露した。
「皆さん、お疲れさまでした。今日応援して頂いた皆様、ありがとうございました。素晴らしい天気と素晴らしいコンディションの中で初めてのメジャー優勝が出来て、本当に嬉しいです。今日は母の日でもあります。日本のお母さん、頑張ってください。日本は大変な時ですが、私も日本を応援します。一緒に頑張りましょう」。
もちろん、あんちょこは用意されていたが、スラスラと話すソンジュの日本語は驚異的に上達している。森本キャディは証言する。「1年前は英語を交えてコミュニケーションをしていたけど、今はまるっきり日本語だけ。すごいですよ」。記者達を前にした優勝会見でも、時折日本語の質問を聞いただけですぐに答えを話し出すなど(答えは韓国語だが)、その成長を垣間見せた。
言葉能力だけではない。震災後、日本女子プロゴルフ協会が企画した全国での共同募金会。4月3日に東京など全国5か所で開催したこのイベントに、韓国に居たソンジュは日帰りで参加した。協会側からの招集は一切なし。ソンジュが突然来日したことに、協会関係者も「びっくりした」と目を丸くした。そして、数日後には義援金として1千万円が協会の口座に振り込まれたという。
最終組で回ったこの日、6番でパーパットを打とうとしたソンジュは、2度携帯電話の着信で仕切り直しを強いられてボギーを叩く。しかし、「その方はマナーモードにするのを忘れたんだと思ったら許すことが出来た」と、そのギャラリーを責めようとはしない。一方で、9番では「右の林に行ったと思ったらフェアウェイに出ていた。多分、木に当たって出たんですね」と森本氏。17番でも右の林に打ち込んだが、打てるラフまで戻ってきた。極めつけは408ヤードの18番。ティショットは左に曲がったが、何かで大きくバウンドして残り90ヤード地点まで飛び、最後はきっちりバーディで締めた。
2位に入った佐伯三貴が、あと何が足りなかったかと聞かれてこう答えている。「勝つための運ですね」。もちろん、この日それを持っていたのは優勝したソンジュに違いないが、その運も当然の報いと思えてしまう普段の行動が、ソンジュの本当の強さなのかも知れない。(編集部:今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka