熊本に根付く不動裕理の伝説…レジェンドのお尻をたたくものは今
◇国内女子◇KKT杯バンテリンレディスオープン 初日(17日)◇熊本空港CC(熊本)◇6595yd(パー72)◇晴れ(観衆3389人)
ゴルフに真剣に取り組み始めた頃、有村智恵は大人から同じような話を何度も聞かされた。「私たちはジュニアのときから、不動さんの“伝説”をいろんなところで耳にするんです。ちょっとでもサボろうもんなら、練習場のオジサンなんかが『不動さんは一度もイスに座らず、何時間も打っていた』とか。『ひとりで自転車に乗ってきて、朝から晩まで打って、球拾いをして帰っていた』とか…」
日本女子ツアー通算50勝。さん然と輝く実績を残したのは郷土・熊本の大先輩。「自分たち(同世代)で話すんですけど、(熊本には)やっぱり不動さんがいるから、何勝しても一人前になった気がしないんですよね…」。自らの手でつかんできた14のタイトルが、いつも見劣りするように思えてならないのは、幸か、あるいは不幸だったのか。
少なくとも有村は「熊本県民は不動さんに間接的にゴルフに対する姿勢を見せてもらってきた」と、そんな境遇をポジティブに捉えているひとり。「“上には上がいすぎて”、ずっと『自分はまだまだ』と思いながらやり続けられた。すごく大きなロールモデルが身近だったことは恵まれた環境だった」と今も思う。
開幕初日、朝のドライビングレンジの右端で最敬礼した先に不動の姿があった。レジェンドにとっては、過去3勝(2004、06、11年)を挙げた熊本で迎えるレギュラーシーズンの自身初戦。ウェッジからリズムよく、淡々とスイングを繰り返す様は背中越しに並ぶ若手選手たちとは少し違う。
今年10月に50歳になる。「ここ2、3年で、やっぱり確実に歳を重ねたと思います。飛距離は“現状維持”で頑張ってるんですけど、それ以上にみんなが飛ばしますからね」と周りの若年化を感じてやまない。「この年齢になると、何かが一気に良くなることはないと分かった。落ちるのは早いんですけどね(笑)。何でも、少しずつしか(良く)ならないんです」と若い頃の自分とは違うことも肌で感じる。
時の流れには逆らえないことを知っている。だが、流されるままでいたくもない。今、刺激を与えてくれる材料のひとつが、不動にとっての先輩プロの生き様でもある。
2週前、45歳以上の女子プロによるレジェンズツアーの開幕戦「長崎レジェンズオープン」に出場し1打差の2位だった。「まずまずでしたけど、もうちょっとセカンドを寄せなきゃいけなかった。もうひと押し必要だったと思います」と惜敗を振り返り、「55、56歳の方が普通に優勝を目指して頑張っているのを見たら、(気持ちが)折れていていいのかなと思いますよ」と、真っすぐな目をした。
「逆に尻を叩かれるような。(年上の選手に)『何、言ってるの?私、いくつよ?』って言われたら、『はい、そうです。私、まだ若いです』って言うしかないでしょう」。競技の場に立つたびに、いくつになっても身が引き締まる思いがする。
熊本地震から10年が経った。「早い気がします。あのときの強烈な気持ちがまだ、そのまま残っている感じ」と心の片隅には消えないものがある。熊本城が完全復旧に至るのは目標で2052年だという。復興への遠い道のりを思い起こさせるようで、不動は「昔の建物ってすごいなとも思う」と言った。「だって、今の建物も壊れたりしたんです。それが何百年も前のもの、残っている石垣が一部でもある。逆に、昔の人のすごさが身に染みるというか…」。故郷のシンボルに、天災に屈しなかった強さを見る。
昨年、「日本女子シニアオープン」の初代女王に輝き、連覇にも期待がかかる。「上手になりたい…というか、もうちょっと年齢に勝ちたい気もします。『この年だからもうダメだ』とかで終わりたくないなと。優勝したい、予選を通過したい、ということ(結果)どうのじゃなくて。『この年齢でも頑張ればそこそこやれるんだな』とくらいには」。この地に根付く伝説にまだ続きがある。(熊本県菊陽町/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。X(旧Twitter): @yktrgw