軸足はシニアツアーにも 藤田寛之のモチベーションの源
◇国内男子◇三井住友VISA太平洋マスターズ 3日目(12日)◇太平洋クラブ御殿場コース(静岡)◇7262yd(パー70)
正直なところ、52歳で迎えたシーズンはどうにも気分が乗らないでいた。「モチベーションは…高くなかったですね」。23年にわたって守ってきた賞金シードを喪失したのが昨年末のこと。今年は「生涯獲得賞金25位以内」の資格でレギュラーツアーに残りながら、成績が振るわず、明確な目標を描けないでいた。
季節は初夏。プロとして数百試合に出場してきた大ベテランの心境は1つの大会でガラリと変わった。6月16日は53歳の誕生日。翌日から行われた「スターツシニア」で5打差をつけて後続を圧倒し、国内シニアツアー初優勝を飾った。
少しばかり敬遠していたシニアでの1勝で見えてきたもの。「もしかすると…メジャーに行けるのかな」。日本プロゴルフ協会によると、年間5回の海外シニアメジャーのうち、「全米シニアプロ」と「全米シニアオープン」は例年、前年の賞金ランキング上位4位まで、「全英シニアオープン」は同ランク10位以内の上位2人が招待されている。
シーズン半ば、藤田はターゲットを変えた。「レギュラーのとき、メジャーに行かせてもらってすごく良かった。自分のモチベーションが上がるし、経験したい」。8月最終週、地元福岡でのレギュラーツアー「Sansan KBCオーガスタ」を泣く泣く欠場して選んだ、「マルハンカップ 太平洋シニア」で2勝目をマーク。9月の「日本シニアオープン」の2位などで、プラヤド・マークセン(タイ)に次ぐ賞金ランク2位をほぼ手中に収めた。
前週の「マイナビABCチャンピオンシップ」からレギュラーツアーに“復帰”。数カ月ではあるが身を置いたシニアツアーとの違いも改めて感じている。「練習場もこっちに来ると打席がない。シニアだと、みんな打ったと思ったらすぐに帰っちゃう(笑)」
自分自身にも変化は確かにあって、「歳を取って自分もだいぶ自分を許すようになった」と認めた。持ち前のストイックさが詰まっていたパッティング練習は最近、始めてから10分後にキャディに声をかけてもらうようにしている。「良かろうが、悪かろうが、そこで終わりにする」。体力も、集中力も、全盛期のそれとは違う。
今週の御殿場で中嶋常幸に「優勝おめでとう」と祝福された。「シニアは55(歳)までが勝負だから」とエールを送られた。
しかし藤田自身、それを理解し、達観しているようで、ゴルフそのものは未知のままだ。大会2日目の最終18番(パー5)。カットラインに2打ビハインドで迎え、2オンを狙ったショットはグリーン左のバンカーに落ち、予選落ちが濃厚になった。「入れるしかないか…」と、あきらめかけた3打目。ボールはスプリンクラー脇のグリーンエッジに落ち、スライスラインを伝ってカップに消えた。「『ゴルフは最後まで分からない』と自分でも言っているけれど、こういうことがあるんだ」。疲れた顔に笑みが浮かんだ。
「ショットを磨いて、来年は行きます」。全米シニア、全英シニアは54歳でプレーする。今季の国内シニアツアーのシーズン最終戦は欠場し、同週のレギュラーツアー「カシオワールドオープン」への出場を予定。来季のシード復帰には優勝しかない状況でも「ワンチャン、何が起こるか分からない」と、まだ思う。(静岡県御殿場市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw