ドライバーはメルカリ、スプーンは中古ショップで/ある27歳のツアープロの世界
◇国内メジャー◇日本プロゴルフ選手権 3日目(3日)◇日光カンツリー倶楽部(栃木県)◇7236yd(パー71)
隣には片山晋呉と石川遼。見渡す限り、周りはギャラリーでいっぱいだ。優勝を争うムービングデーの組み合わせ。経験豊富な選手ならまだしも、レギュラーツアーはこれがキャリアで2試合目。「アドレナリンがものすごく出た」結果、ズルズルと後退するのも無理はない。
フロントナインの8番までに4つボギーをたたいて思った。「僕に失うものはない」。残り198ydの5Iでの第2打はピンそば60㎝につくスーパーショットになった。「あれで落ち着けました」。起死回生のイーグルに大歓声が降り注いだ。
ツアーの世界ではまだ“無名”といえる山本豪は兵庫・小野GCで腕を磨く27歳。2017年のプロテスト合格から奮闘が続くが、目下のファイナルQTで226番目という資格では試合に出るのも精いっぱい。今週は大会初の月曜予選会を通過して貴重な出場権をつかんだ舞台だ。
折り返しの一打で平静を取り戻すと、後半にもハイライトを作った。13番(パー5)、ピンまで270yd近い2打目で握った3W。実はコレ、前日の夜に手に入れたものだった。テーラーメイド製のフェアウェイウッドのヘッドが第2ラウンドで壊れ、コース近くの中古ショップに車を走らせて同じモデルをゲット。グリップを合わせて3万2000円の出費だった。
開催コースのドライビングレンジは距離が短く、今回選手が230yd以上のショットを練習するためには、打席から50ydほど先に設けられた防球用のネットに打たなければならない。つまり、新しい(中古だけど)3Wでどれほど飛ぶかもわからなかった。祈る気持ちで打ったショットはグリーン奥のエッジで止まり、続く3打目はウェッジでチップイン。この日2つ目のイーグルにつながった。
ところで、今週の急造クラブは3Wだけでなかったというのが今回のオチ。実は5月末の下部AbemaTVツアーで1Wのヘッドを破損し、最近メルカリ(フリマアプリ)で購入したばかりだという。こちらは5万5000円だった。
一緒に回った2人の身に同じ災難が降りかかれば、メーカーのスタッフが血相を変えて修理に駆けつける。「それか、いつもスペアを持っているかですよね」。一方で山本はコースにクラブ調整用のツアーバンがずらりと並んでいようと、置かれている立場を考えれば、まだ気軽に提供をお願いできない。一口に「プロゴルファー」といえども、立場は天と地ほど違う世界だ。
見る人あってのプロアスリートの世界を堪能した一日は、苦しみながら「71」をマークして通算7アンダーの7位に踏みとどまった。「僕はツアーのビギナー。ビギナーズラックを狙います!」。ひたむきに、謙虚に。“いつかオレも”の瞬間を手繰り寄せる。(栃木県日光市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw