2017年 アイルランドオープン

思いは英国の空に 谷原秀人と谷口拓也の誓い

2017/07/10 11:42
谷原秀人(左)とキャディを務めた谷口拓也は東北福祉大時代の1年違いの先輩後輩だ

◇欧州男子◇ドバイデューティーフリー アイルランドオープンbyロリーファウンデーション 最終日(9日)◇ポートスチュワートGC(北アイルランド)◇7004yd(パー72)

北アイルランド北海岸のリンクスコースで行われた「アイリッシュオープン」。2週後に控えるメジャー第3戦「全英オープン」の前哨戦は、ジョン・ラーム(スペイン)の圧勝で幕を閉じた。最終日に2打差の4位から逆転を狙った谷原秀人は結局10位。悔しさをあらわにした彼には、絶対に活躍したい理由、そうしなければいけない理由があった。

今年初めから複数のプロキャディと海外を転戦し、世界を渡り歩く谷原は、6月の「全米オープン」からツアー2勝のプロゴルファー・谷口拓也を相棒に起用した。谷原にとって東北福祉大時代の1学年後輩の谷口は、2008年「サン・クロレラ クラシック」で優勝した後、2011年末にシードを喪失。昨季の出場は国内ツアー3試合(下部2試合)にとどまった。

谷口は今年、公私ともに難しい時間を過ごしている。

2月、父・隆政さんのがんが発覚した。10歳でゴルフを始めたのも、父の影響だった。「病気が見つかったときには、もう治る見込みもなかったんです」と明かす。それでも父は今回、谷原の海外転戦のサポートをする愛息を「しっかりやってこい。帰ってきたら会おう。俺は元気だから」と送り出した。テレビ越しの全英で、バッグを担いでともに戦う姿を心待ちにして…。

その旅の途中だった。

北アイルランドでの大会初日の朝(日本時間6日午後)、隆政さんが徳島県内の病院で他界した。66歳の誕生日を迎えた翌日のことだった。

「ゴルフが好きな親父だった。しょっちゅうケンカばかりしていましたけど、親父がいなければ、今の僕もなかった」という谷口は、胸を痛めながらバッグを担ぎ、ひたすらにリンクスコースを歩いた。谷原は大会2日目、全選手中ベストスコアの「65」をマークして上位争いに顔を出した。そして、詳細を胸に秘めたまま「きょうは気合いを入れてやらなければいけない気持ちだった」と言った。

昨年2月、谷原も父の直人さんをがんで亡くしている(享年67歳)。実はそれぞれが、互いの父をよく知る仲だった。「谷さん(谷原)のお父さんが僕とごはんに行って、うちの親父が谷さんとごはんに行ったりして。そういう関係だった」と谷口。「いい仕事をして谷さんの助けになることは、親父の願いでもあった。良いゴルフを見られて、親父も喜んでいると思う」

不思議な縁で結ばれた2人、いや4人の男の思いはいま、きっと同じ方角を向いている。

「拓也と組んで、いいプレーを見せたいという思いが非常に強い。全英まであいつが担ぐ。いいプレーをしたい」と言った谷原は今週、ホールアウトした最終ホールのグリーンで、空を見上げ、人差し指を上げた。「“パパ、ありがとう”ってね」――。祈りは届く。英国の雲がどれほど厚かろうとも。(北アイルランド・ロンドンデリー/桂川洋一)

■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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