“試合中の死”で広がる波紋 ツアーキャディとは?
2週間前、欧州ツアーにとって1500回目の記念大会として記憶されるべきだったポルトガル開催の「マデイラ・オープン」は、別の意味で忘れられない大会となってしまった。連日の霧の影響で36ホールへと短縮された競技は、最終日のプレー中に心臓発作で倒れたキャディの突然死で、いよいよ過去に例のない展開に。競技を再開し、大会を成立させたツアーの決断は波紋を呼び、世界中のゴルフ関係者の注目を集めたのだ。
5月11日(日)、スコットランドのアラスター・フォーサイスのキャディを務めていたジンバブエ出身の52歳、イアン・マクレガーはセント・デ・セラGCの(彼らにとって最終ホールとなる)9番フェアウェイで突然崩れ落ち、ほどなくして死亡が確認された。
試合は1時間以上の中断を挟み、その間にツアーは選手、キャディらと共に協議した上で、クラブハウスでの1分間の黙祷のあとの競技再開を決断した。フォーサイスも「多分、マック(マクレガー)もそうすることを望んだと思う」と最後の1ホールを回りきった。一方で、決勝の第2ラウンドに残っていた75選手中、ピーター・ローリー(アイルランド)、トーマス・ピーターズ(ベルギー)、アレクサンダー・カレカ(フランス)の3選手は競技継続を選ばずに棄権した。誰もが突然の悲劇に心を乱されていた。
その後、競技再開の決断に対して、ツアーには多くの批判が寄せられた。翌週の「スペインオープン」で、欧州ツアーCEOのジョージ・オグレイディは、選手サイドのトーナメント委員会代表であるトーマス・ビヨーンも同席した欧州ツアーキャディ協会(European Tour Caddies Association/ETCA)との会合に出席し、「マデイラで起きたことで彼らを傷付け、動揺させたことを謝罪した」ことを明らかにした。
個人の感情と、組織としての決断は必ずしも一致しない。ツアーにとって常に看板となってくれる選手たちと、その選手を支える一方でツアーと直接的な金銭関係の発生しないキャディたちを同じ処遇にすることは難しい。もしプレーヤーに同じ悲劇が起きていたらどうしていたか? 競技再開の決断は、今回以上に困難なものになっていたのは間違いない。
昨年末には欧州ツアーキャディ協会に続き、日本ツアーでもしばしばバックを担ぐディーン・ハーディン氏がツアーを制限しないキャディ組織「ツアーキャディ協会(Tour Caddie Association)」を立ち上げ、待遇改善に乗り出している。また、PGAツアーでも昨年末から「プロキャディ協会(Association of Professional Tour Caddies/APTC)」設立の議論が活発に行われている。そんな中での「死」だっただけに、ツアーにおけるキャディの立場は、ひときわクローズアップされ始めている。
今週テキサスで行われる「クラウンプラザインビテーショナル」の会場でも、その議論は続いていた。キャディの保険や福祉をどうするか? ビブスやキャップへの広告をどう扱うか? トーナメント期間中の食事はどうあるべきか?
長年愛されてきた1人のベテランキャディの突然死を、悲しみだけで片付けてしまうわけにはいかないだろう。(テキサス州フォートワース/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka