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小林至博士のゴルフ余聞

欲望は善か悪か 新リーグvs米ツアーの結末はいかに/小林至博士のゴルフ余聞

Greed is good.(欲望は善である)

映画「ウォール街」で、マイケル・ダグラス演じる投資銀行家ゴードン・ゲッコーが放ったセリフである。映画が公開されたのは1987年、いまから35年も前であるが、このセリフは、その後もバブルの崩壊やリーマンショックなど金融危機が起こるたびに、世界中で様々に引用されてきた。2011年の同映画の続編「ウォール・ストリート」でも、その是非がテーマとなっている。

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なぜそんなセリフを思い出したかと言えば、サウジアラビアのオイルマネーを資金源に、グレッグ・ノーマン(オーストラリア)が仕掛けている世界のトップ選手だけで構成される「スーパーゴルフリーグ」の現実味が日増しに高まり、欲望(greed)を争点にした舌戦のボルテージも上がっているからだ。

これまでの報道を簡単にまとめると、同リーグは早ければ今年6月からスタートし、年間14試合の開催を念頭にシーズン賞金総額と選手との契約金(移籍金と言ってもいいかもしれない)に計3300億円を用意していると言われた。米ツアーの選手への還元額(賞金、年金基金など諸々合わせて)がシーズン1000億円弱だから、本当だとしたらすごいことだ。

サウジアラビアは世界的な脱炭素の動き→石油の需要低下の影響で、この10年、低成長にあえいできたが、昨年からの原油高騰で状況は一変。復活したオイルマネーをもって、昨年後半から動きを本格化させ、世界の一流選手にあまねく声をかけて出場選手との契約を進めてきたとされる。

17選手が契約を済ませたとされ、実名は公開されていないもののアダム・スコット(オーストラリア)やリー・ウェストウッド(イングランド)らが同リーグと秘密保持契約(NDA)を結び、ブライソン・デシャンボーが156億円のオファーを受けたという報道もあった(本人は否定)。これに対して米ツアーは、選手への還元額を15%増やす一方で、同リーグへの参加者は永久追放処分にすると警告するなどアメとムチの防衛策を打ち出した。また、米ツアー所属選手の一部からは、新リーグに参加する選手はgreed(欲望)に目がくらんでいると批判する声も上がった。

こうした中、早くから参戦に前向きな姿勢を示していたフィル・ミケルソンが「米ツアーは、肖像権を個々の選手に帰属させず、2000~3000億円をため込んでいる。その強欲ぶり(greed)には、とてつもない不快を覚える」と強烈に批判して騒動は拡大。51歳にしてカネに目がくらんだ(つまりgreed)と揶揄(やゆ)されていることに対して、言い返したということなのかもしれないが、謝罪、休養、スポンサー契約停止…という事態に発展した。

ここで、話を冒頭に戻したい。欲望は善か悪か? 映画において、ゲッコーはこう続けている。

「欲望は物事の本質を明快にし、道を切り開く人類発展の推進力である」

思い起こせば、米ツアーが1968年にPGA(米国ゴルフ協会)から独立したのも、「クラブプロ(日本でいうレッスンプロ)がツアー競技の興行収入から恩恵を受けるのはおかしい。自分たち(ツアープロ)だけで運営すればもっと稼げる」という欲望が動機だった。実際、その欲望は、賞金総額を独立当時の600万ドルから、4億2700万ドルへと70倍以上に成長させる原動力となった。

ひたすらに経済成長を追求した欲望資本主義の限界も見えてきたと言われる現代において、欲望を争点とする新リーグvs米ツアーがどのような結末を迎えるのか。一つの社会実験としても注目したい。(小林至・桜美林大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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