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小林至博士のゴルフ余聞

アメリカの大学ゴルフと男女同権ルール

前回のコラムで、アメリカの大学スポーツの現状、なかでもゴルフ部のように興行収入を期待できない運動部は少数精鋭となることをお話しした。今回はもうひとつの特徴である男女同権のためのルール、「TitleⅨ(タイトル・ナイン)」とそのことがアメリカの女子ゴルフに与えた影響を記してみたい。

TitleⅨとは教育改正法第9編の略称で、教育における性差別の禁止を規定した法案である。「男女教育機会均等法案」との日本語訳にもある通り、1972年に法制化された際の趣旨は、教育機関における男女の機会均等だが、もっとも大きな影響を与えたのが、学生スポーツの世界だった。

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前回も記したとおり、アメフトや男子バスケなど人気競技は大学経営にとって非常に重要で、そこから得られる興行収入はもちろん、学生募集、学生、教職員、地域、OBの帰属意識の向上、そして寄付金募集の触媒まで、大きな影響を及ぼす。そのため、各大学は競い合って指導者に高い報酬を払い、豪華な施設や機材を整え、有力な高校生をリクルートしている。

それ以外の競技もアメリカのアマチュアスポーツの中心は大学(ほとんどのオリンピック選手は大学生)だ。各競技団体のロビー活動、OBや地域の篤志家の支援もあり、学生選手は恩恵を受けるようになり、中央統括団体であるNCAAがそれを制度として整備してきた。

そんななかでも、女性は置き去りにされてきたが、人種差別を禁ずる公民権法が1964年に成立するなど差別撤廃の大きな潮流のなかで、TitleⅨも成立した。その結果、学生選手の数、アスリート奨学金の支給額も原則として男女平等であることが求められるようになった。

TitleⅨの影響は絶大で、法制化された1972年の時点で学生選手の数が男子17万人に対して女子は3万人だったが、2018年には男子28万人、女子22万人と人数も、男女比も劇的に変化した。

男子の場合、学生選手の数も奨学金支給額もドル箱のアメフトが中心となる。1校当たり、アメフト部の奨学金支給額の上限がなんと85人分、それに次ぐ人気種目のバスケは13人分で野球は11.7人分だ。女子にも同じ人数に同じ待遇を用意しなければいけないが、たとえばアメフトはない。そこで全種目にエントリーすると60人が試合出場できる女子ボートの奨学金枠が20人分になっているなど、やや数合わせの様相を呈している。ゴルフについても、男子が他の競技との兼ね合いでなんとか4.5人分を確保している状況に対し、女子は公式戦に出場できる枠(6人分)をそっくり奨学生で固めることができるのである。

高卒が中心の日本や韓国のツアーに比べて、アメリカのツアーは、アニカ・ソレンスタムロレーナ・オチョア(ともにアリゾナ大卒)ら外国籍の選手も含めてアメリカの大学の出身者が多数を占めてきた。その背景には、NCAAの仕組みがあったのだ。

近年は、若年化が進み、世界のトップが10代後半から20代前半で占められており、アメリカの大学ゴルフ部がプロへの登竜門とは必ずしも言えないが、大学卒の価値が日本よりはるかに高いアメリカにおいて、競技者としての可能性を追い求めながら、学位を得られる大学スポーツの輝きは失われていない。(小林至・江戸川大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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