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全英シニアオープン観戦記(後編)

by小松直行

今年で16回目の全英シニアオープンの舞台となったのはロイヤル・カウンティーダウンGC・チャンピオンシップコース。北アイルランド東部ダウン郡ニューキャッスルにあるリンクスである。ベルファストの南50キロほど、国際空港からは車でおよそ1時間半。ダンドラム湾に面する海岸線とモーンの山並みが、思わず深呼吸をしたくなるような、爽やかで、美しい風景を作り出している。イギリスの誇るエッセイスト、バーナード・ダーウィン(Bernard Darwin) は「ここでのプレーは忘我の境地」と謳っている。

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記録によれば、造ったのはマザーネイチャー(!)。あのオールド・トム・モリスが依頼されてレイアウトし1889年に開場したアイルランドで2番目に古いリンクスである。のちにハリー・バードンとハリー・コルトが多少の手を加えている。

フェアウェイのすぐ近くにはフェスキューとベントのラフ。そしてさまざまなヒースが小さく可憐な花を風に揺らしている。ゴース(ハリエニシダ) のブッシュ、そして、曖昧なショットを許さない砂丘がプレーヤーの前に立ちはだかり、かつては砂丘だった大小のマウンドが、曖昧なショットを阻む。ティショットがブラインドになるホールも5ホール。そして、バンカーにはススキのように丈の長い草が前方を縁取って、ペナルティを与えるべく待ちかまえている。グリーンとフェアウェイの芝はフェスキュー、ベント、ポアナだ。

世界ランキング・トップ10に何度もランクされてきたこのコースが全英オープンの会場とならないのは敷地の余裕の問題だけだろう。リンクス通のトム・ワトソンも絶賛し、タイガー・ウッズも今年の全英オープンに先立ってここを訪れている。プロショップで聞いた話では2000年のセント・アンドルーズの時にもマーク・オメーラリー・ジャンセンとともにやってきて、80以上を打ったらしい。それでもベットには勝ったということだが、そのときは素晴らしい調整になったわけだ。

全英シニア・オープンはPGAヨーロピアン・シニアツアーとR&A、IMGの共同開催により1987年に始まった。R&Aがシニアの試合に関わり始めたのは1991年からのことだが、前週に行われる全英オープンと比べてしまえば、同じナショナル・オープンではあるが存在感に乏しい。今回の賞金総額は50万ポンド(約9,200万円 )。優勝賞金は7万9,000ポンド(1,500万円)。同じ週にアメリカで行われるシニアPGAのフリート・ボストン・クラシック(3日間)の賞金総額が150万ドル(約1億7,454万円)、優勝は22万5千ドル(2,618万円)、2位で$132,000(1,536万円)だから、賞金額ではあきらかに見劣りする。

遠くへ出かけていって4日間も戦って、しかも冷たい雨や風の中でとなれば敬遠するプレーヤーも多いだろう。しかし、2001年の大会はアーノルド・パーマー、ゲーリー・プレイヤー、そしてジャック・ニクラスがそろい踏みし、青木功プロも参加して大いに盛り上がった。アメリカのシニアPGAツアーのメジャーの一つであるザ・トラディションの、スポンサーシップの成り行き次第では、この全英シニアオープンがアメリカのシニアにとってもメジャーの一つとなる可能性がある。

ただ、賞金の問題ではないと考えるプレーヤーも少なくはない。今年も2会場で行われた予選会には世界各国から参加者が集まった。欧州各国を初めアフリカやアジア、オセアニア、北米、そしてブラジルからの参加者もいて、レギュラーツアーで目にするプレーヤーたちの国籍よりも多様だ。ゴルファーとなったなら、誰もがいずれはリンクスでのプレーを願うということの証かもしれない。今回こそ肋骨の怪我で出場がかなわなかったが、G.プレーヤーはかねてから真のメジャーだと主張し、ゴルフの頂点をきわめる闘いは、やはりゴルフの始まったリンクスで行われるべきだと言っている。いわばゴルフの原点への「回帰的参戦」はシニアとなってこそ増えるのかもしれない。

出場選手たちの戦いぶりを見ていてあらためて思わされるのは「ゴルフに引退はない」ということ。去年、プレーオフで破れた66歳のボブ・チャールズは、今年も淡々とショットを重ね、14位タイに入った。そのチャールズと同じ組でスーパーシニアのタイトルを争っていたニール・コールズは9月に68歳になる。18位タイとして来年の出場権を得たコールズは、今季もシニアツアーで勝ち、自身のもっていた最年長優勝記録を更新している。6月末のローレンス・バットリー・シニアーズで8ホールの“マラソン・サドンデス”を制したコールズは67歳と9か月。2日目には67で回ってエージシュートまで達成。

「じわじわと歳をとっていくけれど、私はいつも“もう一度、勝てるんだ”と思ってやってきた。そういう気持ちがあれば、このゴルフというゲームの厳しさとか重圧に負けずに、背すじを伸ばしてやっていけるんだ」

ニール・コールズのこのコメントを聞けただけで、私は自分がゴルファーになったことを幸せに思う。来年の全英シニアオープンが楽しみだ。

著者プロフィール
小松直行(こまつ・なおゆき)

1960年横浜生まれ。GDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)スタッフライター。CS放送におけるゴルフ中継アナウンサーとしても活躍中。筑波大学卒。東京大学大学院修士課程修了、同博士課程中退。専門はスポーツ社会学。資生堂研究員、日本女子体育大学専任講師を経て今春よりフリーランスに。同大学非常勤講師として教壇に立つかたわら、スポーツの伝え手たらんと鋭意修行中。テレビ朝日『ニュースステーション』リポーターをきっかけに、CNN『東京プライム』のキャスターを10年間つとめた。著書・訳書多数。ホームコースはカレドニアンGC。HD14。

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