「まじかぁ」でも貫いた自分の戦略 橋本美月が震える手でつかんだビッグタイトル
◇アジアパシフィック女子アマチュア選手権 最終日(13日)◇アブダビGC(UAE)◇6431yd(パー72)
ファルコン(隼)を象ったクラブハウスに戻っていく18番(515yd/パー5)は、右サイドの池に沿うように右ドッグレッグしたフィニッシングホール。1打差の単独首位でこのホールを迎えた橋本美月(東北福祉大1年)は池を避けるためにティショットを3Wで刻み、3打目勝負をするつもりでいた。
だが、隣を見ると、1打差で追ってくるナッタクリッタ・ウォンタウィラップ(タイ)と、ケルシー・ベネット(オーストラリア)が1Wを握っている。もし2人が2オンしてイーグルを獲れば、形勢は逆転する。「まじかぁと思いました」と橋本はそのときの心境を明かす。「でも、とりあえず自分のプレーをしっかり貫こうと思って、誘惑に負けないようにしました」と、オナーとなってプラン通りに3Wを振っていった。
結果的には、右の池につかまったウォンタウィラップはパー止まり。ベネットもバーディパットを決めきれなかった。残された橋本が、震える手で2パットのパーとして1打差で勝利をつかむ。チームメートからのウォーターシャワーを浴び、コースに一礼して涙を拭う。まるで、一週間前の中島啓太をなぞるような日本勢の連勝だった。
3打差を追って出た最終日、勝負は前半に激しく動いた。ハイライトをかいつまんでも、橋本がティショットを曲げた2番(パー5)のパーセーブや、残り92ydを54度のウェッジで直接沈めた3番のイーグル。6番をボギーとしたシム(ウォンタウィラップの愛称)が、続く7番(パー3)でティショットを池に入れたダブルボギーや、直後の8番(パー5)で手前3mに2オンさせたイーグルなど勝負は一進一退を繰り返した。橋本が9番をボギーとして、ハーフターン時に2人は同スコアで並んでいた。
蛇足かも知れないが、まったく別の事実を記しておこう。この日、東北福祉大のイエローのユニフォームを着た橋本と木内真衣。16歳の手塚彩馨と上田澪空も黄色のシャツでそろえたが、手塚は優勝争いをする先輩から「パワーをもらおうと思いました」とピンクと迷った末に黄色を選んだ理由を話した。その手塚は4番(パー3)で、試合では初めてというホールインワンを決めた。
橋本がボギーとした9番では、大きくグリーンオーバーした2打目がロープ外で見ていたタイの報道陣の肩に当たってラフに止まった。その小柄な女性は、今週ずっとタイと日本の国旗が並んだ「アマタフレンドシップカップ」のポロシャツをうれしそうに着ていた親日家の1人だった。
後半、11番のバーディで一歩抜け出した橋本だったが、その後はカップが遠かった。「入れたいっていう気持ちが強くなってきたのと、優勝を意識していることからか、ラインの読み違いや打ちミスも多かった」とパーが続いた。
後続に1打差と迫られて迎えた17番は最大のピンチだった。フェアウェイからの2打目をミスした橋本は、ピンの右15mほどのロングパットを残していた。一方でベネットは5mのバーディチャンス。「あそこまで長いパットを打つことがそんなになくて、距離感も合わなかった」とファーストパットは2m強に寄っただけ。「もし(ベネットに)バーディパットを決められていたら、やばかったと思います」という紙一重の状況でベネットがバーディパットを外し、直後に橋本がパーパットをねじ込んでヨシっと右拳を振り下ろした。
勝利の要因について、橋本は「最後まで自分を信じて、とにかく楽しもうと思ってやっていたので、そこかなと思います」と総括した。「一緒にいるだけでずっと楽しくて、何をしたっていうワケじゃないけど、みんなで集まって普通に会話していることがすごく楽しい時間でした」という5人のチームメートの存在にも感謝して、目に涙をためた。
最後に余談をもう1つ。優勝を決めて引き上げてきた橋本は、キャディバッグから「勝守り」と書かれた小さな木札を取り出して「これ、誰の?」とチームメートに尋ねたが、その場にいなかった稲垣那奈子を除くメンバーたちは、みな首を横に振った。その木札は6番ホールでカメラマンが拾ったものを、「持っておいた方がいいですね」と橋本がキャディバッグに収めたもの。長野未祈が「イナ(稲垣)だと思うから預かっておく」と言ってポケットに締まったが、その後の消息は分かっていない。いや、分からないままの方が腑に落ちるほど今年のゴルフ界での日本勢の活躍は神がかっている。(アラブ首長国連邦アブダビ/今岡涼太)