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<選手名鑑232>パトリック・カントレー(上)

■天才少年カントレー 波乱万丈の816日を経てツアー復帰

今大会は世界ランク64位までの選手(欠場者がある場合は繰り下がる)しか参加できない特別な試合だ。パトリック・カントレー(25)は、今年のマッチプレー出場権はまだ有しないが、近い将来には加わる可能性の高い注目選手だ。

カントレーは先週3月17日に誕生日を迎えたばかり。彼が過ごした10年は、波乱万丈という言葉で言い表せない。世界アマチュアランク1位を55週継続するという記録など、“天才少年”と脚光を浴びてプロ転向したが、予期せぬ重度の腰痛によるツアー長期離脱、無二の親友でもある帯同キャディの壮絶な死…。心身の苦痛で言葉を発するエネルギーさえ失った日々から敢然と立ちあがり、今年2月、816日ぶりにPGAツアーというリングに復帰した。激励を込め、彼が過ごした10年の出来事を振り返ろうと思う。

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■わずか3m目前で消えた親友

耐えがたい腰痛でツアーから離れ、治療やリハビリに専念し、1年3カ月が過ぎた頃、これならゴルフができる!とツアー復帰を願い、最終チェックのつもりで医師の診察を仰いだ。だが「あと9カ月は無理」と言われ、悶々とする気持ちを吹き飛ばそうと、親友でキャディのクリス・ロスと、地元カリフォルニア州ロングビーチにあるレストラン&バーのライブに遊びに出かけた。ロスはアナハイムにあるカトリック系男子校・サーバイト高校ゴルフ部のチームメイトで、誰よりカントレーのゴルフを知り、アマチュア時代の主要試合やマスターズなど、キャデイとして奮闘した。口数の少ないカントレーに代わり、インタビューを受け、彼のゴルフのすごさを楽しそうに語る大ファン。その後も最高のプロキャディになろうと懸命に学び、互いの成長と成功を目指す無二の存在だった。

2016年2月13日(土)深夜1時すぎ。ライブ会場にほど近い交差点で、ロスがカントレーより少し先に道を横断しようとした途端、ロスが視界から消えた。猛スピードで走るスポーツカーが、ロスを通りの反対側まで吹き飛ばしていたのだ。血の海に倒れるロスの意識はなく、抱き上げてもかすかな息だけ。カントレーは即座に救急車を呼び、病院に搬送したが、約1時間後に亡くなった。24歳だった。現場から約800m先に乗り捨てられた車から、数日後に、地元在住の21歳の女性が逮捕された。カントレーは衝撃と絶望に打ちひしがれた。その翌週、ロサンゼルスで開催されたジェネシスオープン(当時ノーザントラストオープン)予選2日間には、ツアー仲間に愛されたロスへ哀悼を込め、選手やキャディたちは黒リボンの喪章をつけプレー。そして欠場の続くカントレーの将来を、誰もが案じた。

■ロングビーチ・コネクション

事故直後にカントレーの元へ駆けつけたのが、少年時代からのコーチ、ジェイミー・マリガン(53)だった。「どう話せばいいのか分からず、ひと言ふた言しか話せなかった」。思いは通じていたが、互いに言葉を失っていた。カントレーは心にも体にも大きな傷を負い、周囲の話では鬱(うつ)症状も見られたという。現実を生きる手段として、ゴルフではなく、2年で中退したUCLAに復学し、学位をとることも考えた。

マリガンの仲間たちもカントレーを懸命にサポートした。同じロングビーチ出身の元教師ほか、ツアー2勝したポール・ゴイドス、ジョン・マリンジャー、ピーター・トマスロに加え、マリンジャーの旧友であるPGAツアー11勝のジョン・クックも加わり、ツアーでナイスガイとして知られる選手たちが一丸となって、今にも崩れそうなカントレーを見守った。

「生きる目標はゴルフ」――カントレーは決意新たに、毎日1時間のマッサージと、ストレッチを根気よく続け、ようやくプレーを再開できるまでに回復した。プレーの前には体を温めるため、3時間のエクササイズを行うなど入念なケアを施した。そして今年2月12日、AT&Tペブルビーチプロアマで、約27カ月ぶりに復帰が決定。ロスの他界から1年が過ぎ、大会2日目はロスの命日だった。この試合はプロとしてわずか34試合目だったが、万感の思いで立った初日1番ホールでバーディを奪い、結果48位タイも大きな自信をつかむこととなった。そして5週間後、スポンサー推薦で出場した復帰2戦目のバルスパー選手権で本領を発揮。感情の起伏を出さないクールなカントレースタイルのプレーを貫き、単独2位でのフィニッシュ。公傷制度をクリアしてシード権を獲得した。

カントレーを新たに支える新キャディはマット・ミニスター。ジャック・ニクラスと同じオハイオ州立大学ゴルフ部出身で、現在チャンピオンズツアーで活躍するジェフ・スルーマンニック・プライスらメジャー勝者、直近はクリス・カークらとコンビを組んできたベテランだ。カントレーの昨年末の世界ランクは1866位。2月の復帰戦後は1419位。2戦目を終えて一気に239位に浮上した。新コンビはこれからも頂点を狙い続ける。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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