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2016年 ドイツバンク選手権
期間:09/02〜09/05 場所:TPCボストン(マサチューセッツ州)

<選手名鑑212>キム・シウー

■ 最終戦で初優勝!21歳今季最年少優勝、大会タイ記録+コース記録「60」

今季レギュラーシーズンは開幕戦で23歳のエミリアーノ・グリージョ、最終戦は21歳のキム・シウー(韓国)と、若手の初優勝に始まり、締めくくるシーズンだった。キムの初優勝は2つの記録が絡む鮮烈勝利だった。一つはコースレコードを樹立する「60」。ウィンダム選手権2日目、8時20分10番からスタートした。10番でいきなりバーディを奪い、その後も5バーディを奪って、6アンダーの『29』で折り返した。後半も1イーグル2バーディ。9番でバーディを奪えばトータル「59」だったが、このホールをパーとして「60」。前日41位から首位浮上で、それまでの記録「61」を更新して新記録を樹立した。

絶好調モードは継続。3日目も「64」で通算18アンダー。2位のラファ・カブレラベローに4打差で最終日を迎え、後半3ボギーを叩くも15、18番で取り戻し、通算21アンダーの大会タイ記録、2位のルーク・ドナルドに4打差で逃げ切った。最後まで冷静沈着、21歳とは思えない貫禄あるプレーぶりだった。

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■ 史上最年少17歳でPGAツアー合格

キムは1995年6月28日、韓国ソウル生まれ。6歳でゴルフを始め、09年、中学2年生の時には韓国オープンに出場し、プロと戦えるレベルにまで成長。韓国内では「ゴルフの神童」と、将来はメジャーも狙える有望選手として大きな期待を集めた。

17歳でプロに転向。多くの韓国人選手は最終目標を「米PGAツアーの出場権獲得と優勝」とし、そのステップとして日本やアジア、最近は欧州で経験を積み渡米するというプロセスを経ている。PGAツアーで8勝、韓国ゴルフのパイオニア、チェ・キョンジュや、韓国人選手初で唯一のメジャー勝者(09年全米プロ選手権)Y.E.ヤンも、日本ツアーを経験した後に渡米しPGAツアーへ挑んだ。だが、キムはプロ転向直後の2012年12月、いきなりPGAツアーのクオリファイングスクール(PGAツアーの出場権獲得試合=以下Qスクール)に挑戦。実力者なら誰でもトライでき、キムが挑戦したのは実施最終年で、ラストチャンスだと世界中から例年以上の強者たちが集まった。

Qスクールは3ステージからなり、最終ステージに残った上位25位までの選手が合格、最終ステージは6ラウンド108ホールで「最も過酷な試合」と言われた。シード落ちしたメジャー勝者や、ツアー勝者などおなじみの選手も多数プレーする中、当時17歳の高校生だったキムは、最終ステージまで残り20位でフィニッシュ。17歳5カ月6日は、それまでの17歳6カ月1日を抜き、史上最年少合格を果たしビッグニュースになった。しかしPGAツアーの規則では、18歳未満はメンバーとして承認されないルールがある。それでも感触を知るため、誕生日までに2試合に参加。正式なプレーは13年6月で、18歳の誕生日まで半年以上を待つことになった。

■ 「勝利」を知ったウェブドットコムツアー 無駄ではなかった2年間

18歳になり、大きな期待と注目を受け意気揚々とツアーへ参戦した。正式メンバーとして6試合に参加したが、ことごとく跳ね返され全試合で予選落ち。翌14年のシード権獲得は失敗に終わった。14、15年は米男子下部のウェブドットコムツアーでプレーし、米国のコースや各地の気候、ツアーライフを経験。そこから再びPGAツアーを目指した。

ウェブドットコムツアーでは15年7月に記録に迫る優勝を果たした。カリフォルニア州で行われたストーン・ブラエ・クラシックで、ジェイミー・ラブマークウェス・ローチをプレーオフで下し、同ツアー初優勝。その時キムは20歳と20日。07年リジェンド・ファイナンシャルグループ・クラシックでは、ジェイソン・デイが記録した19歳7カ月26日の最年少優勝に迫る、史上2番目の年少記録となった。韓国籍の選手の優勝は、13年のノ・スンヨル以来2人目。プロとして優勝することを経験し、大きな転機になった。同年PGAツアーへの昇格戦ファイナルズで、20歳で最年少突破を果たし、今季再びPGAツアーでのプレーを実現させた。

キムのポテンシャルは注目の的だった。今年2月のAT&Tペブルビーチナショナルプロアマでは、キャリア40年の大ベテラン、マイク・フラフ・コーワンがバッグを担いだ。フューリックが手首のリハビリで長期離脱していたため、「若手のために」とひと肌脱いだ。フラフはタイガー・ウッズのデビューから3年間を支えた当時を思い起こし、同世代のキムにいくつか助言したという。現在のキャディは、ウェブドットコムツアー時代に知り合った、フロリダ出身のマーク・カレンズ。彼は13年間ツアープロを経験した後、キャディに転身。2010年の全米プロでは、バッバ・ワトソンのキャディとして2位。またケビン・ナやジェイムス・ドリスコールの優勝にも貢献した。ショートゲームやクラブの知識も豊富で、キムにとってぴったりの頼れるパートナーだ。「キムのゴルフは見ていて楽しい。スーパースターになる逸材」とゾッコンだ。

■ 韓国最強選手へ

ウェブドットコムツアーでの活躍で、今季からPGAツアーへ復活。フル参戦は初めてでも、序盤から優勝争いに絡み、2年間の経験がいかに大きかったかを強く感じさせる。1月のソニーオープンを4位で終え、初のトップ5入り。翌週アメリカ本土に移り行われたキャリアビルダー・チャレンジで9位。7月のバーバソル選手権では、首位に6打差で最終日を迎え、「63」の好スコアで首位タイに浮上した。結局、4ホールに及ぶプレーオフでアーロン・バデリーに敗れたが、キムの爆発力は衝撃的で初優勝への濃い雰囲気を漂わせた。

身長182cm、83kg。ゆったり、大きく振りぬくスイングは、アーニー・エルスを彷彿させる。今季の平均飛距離は293ydでランク69位。ゆったり振っての293ydに、潜在的なパワーと安定感を感じる。ショット全体のうまさを表すStroke Gained Tee to Greenはランク38位。バーバソル選手権で2位に終わった直後、大先輩のチョイから「またすぐチャンスが巡ってくる。落ち込むことはない」とメッセージが届き、わずか1カ月後に現実のものとなった。

優勝でポイントランクは43位から15位へ。30人しか参加できない最終戦のツアー選手権出場に王手をかけた。世界ランクも115位から62位へ浮上し、50位以内に入ればメジャーや世界選手権出場へのチャンスも拡大する。ワールドステージに踏み出したばかりだが、韓国最強選手への可能性はますます高まる。2020年の東京五輪出場の可能性も広がり、25歳のキムがどのような選手に成長しているか楽しみだ。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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