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期間:08/25~08/28  場所: ベスページ州立公園ブラックコース(ニューヨーク州)

<選手名鑑211>ジム・フューリック(後編)

“変則”もフューリックにとっては王道?

■ “変則”と言う名の王道

僕が初めてジム・フューリックと対面したのは94年1月のフェニックスオープンの練習場だった。彼は当時23歳の新人で初々しく、話してみると朗らかで楽しい男だった。PGAツアーには個性派スインガーが少なくない。グリップが特徴的だったり、スイングプレーンがアップライトやフラットだったり、スウェー打法だったり、逆にウェイトシフトを最小限に抑えたスイングだったり・・・。個性的といってもフューリックのようにバック&ダウンスイングのプレーンが大きく違う選手は珍しく、何としてもじっくり見たい!と久しぶりに強い好奇心を抱いたのを覚えている。そこで分かったことは、フューリックのゴルフすべてが変則。突き詰めると、彼の“変則”は周囲が感じることで、本人は王道という信念を持っていることだった。フューリックの変則ポイントをチェックしていこう。

■ 8の字スインガー

フューリックのスイングを後方から見ると、トップ近辺のバック&ダウンスイングで8の字を描く軌道だ。現在はかなりゆるやかになったが、当時は8の字、無限大∞のようにループしていた。米国でもプレーンの変則はオーソドックスと言われる軌道に比べ、反復性が低くなるため、修正する選手が多い。反復できなければミスショットが増える可能性があるからだ。だが、フューリックのショットはほとんどブレない。弾道はストレートからややフェードで目標に向かって力強く飛び、変則に見えながらもマシーンのごとく常に正確そして無比。変則は反復性が低いというスイングのオーソドックスな理論は彼には当てはまらない。選手仲間は驚異と敬意をこめ、やがて「Super Loopy」、「ストレート・マン」と呼ぶようになった。

■ ダブルオーバーラップ・グリップ

グリップも個性的だ。多くの選手は左人差し指の上に、右小指を重ねるオーバーラップグリップだが、フューリックは右小指と薬指の2本を重ねる「ダブルオーバーラップ・グリップ」だ。このグリップで実際にショットしてみると、右手に力を入れにくく、左手、腕だけでスイングしている感じだ。右に力が入りにくい分、右手の強い動きは少なくダッグフック的な強い左への曲がりは出ない感じがする。このグリップでプレーする選手はPGAツアーではフューリックただ一人。彼は世界でも稀な「変則グリップ」+「変則スイング」の選手といっていい。

どうしてもインタビューしたいと思い、練習を終えた彼に声をかけると快諾。シャイな性格だが、スイングが話題になると一転、ハニカミながらも饒舌に語ってくれた。まず「12歳の頃からクラブプロの父・マイクから本格的に指導を受け始め、当初から現在のグリップ、スイングで、一度も変えずに続けてきた」と聞き、僕の心は「!」と「?」の好奇心であふれかえった。

■ クロスハンドグリップ

パットのグリップも「クロスハンド」で、多くの選手と異なり個性が際立っていた。クロスハンドを採用する選手はパットの不調で試行錯誤の末に行き着いた、というケースが多い。だがフューリックは「パットを始めた時からクロスハンドで握るよう父から教えられた」という。彼はスイングもパッティングも、“変則”のトッププロという珍しい存在だ。正直に言うと、すべてが変則で、どこまで躍進するのか?何年くらいPGAツアーでプレーできるのだろうか?というのが、初めて会った時の印象はだった。しかし、それは次々と覆され、03年の全米オープン(メジャー)を含むツアー17勝。年間王者、最優秀選手、46歳で「58」という、史上最少スコアを記録するなど、今では疑問のかけらもない。つまり一般的には変則でも、フューリックにとっては信じる唯一の方法、王道なのだ。

後日、マイクと話す機会を得て、真っ先にスイングについて聞いてみた。すると「人は体型も、骨格も、筋肉のつき方や形、その特徴、手足の長さなどすべて違う。何が自然で、どの方法が動きやすいかもそれぞれ違う。いわゆるオーソドックスな型にしようとすれば、それがその人の変則だったりすることもある。オーソドックスは人それぞれ。だからジムにはあのスイング、クロスハンドでのプレーを続けさせている」。誰より息子の成功を願う父の確固たる信念が、フューリックのゴルフを支えていると知った。

■ PGAツアーの親子鷹

フューリックは東部ペンシルベニア州で生まれた。父はウクライナとハンガリー系、母はポーランドとチェコ系の米国人。少年時代はバスケットボールの選手として活躍したが、父の影響と指導で本格的にゴルフをプレーするようになった。その日から今に至るまで、コーチは父ひとり。父子、師弟のパートナーシップが揺らいだことは一度もない。

父マイクの話も興味深いことばかりだったが、中でもクロスハンドでパッティングを始めさせたことについては特に興味深かった。地元ペンシルベニア州でアーノルド・パーマーゲーリー・プレーヤー参加のイベントがあった。ゴルフの後にパーティーが行われ、マイクも出席。マイクは2人のレジェンドにどうしても聞きたいことがあった。それはゴルフのスイングで、「こうしておけば良かったと思うことをひとつあげるとしたら?」という質問だった。すると偶然にもまったく同じ答えが返ってきた。「パッティングのグリップをクロスハンドにしておけば良かった」というものだった。メジャー7勝を含むツアー62勝のパーマーとメジャー9勝を含むツアー24勝のプレーヤー、時代を築いた王者2人の言葉に「パッティングのグリップはクロスハンド以外にない」と父の心は決まった。
ジムが不調や負傷で不安にかられそうな時、父は徹頭徹尾「間違いはない」と行く道を照らし自信を持たせた。スイング軌道はループしても、ショットと信念は絶対に曲げない強い男に育てあげたのだのだった。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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