GOLF DIGEST ONLINE ゴルフダイジェスト・オンライン
ニュース

米国男子の最新ゴルフニュースをお届け

バルスパー選手権
期間:03/10~03/13  場所: イニスブルックリゾート(フロリダ州)

<選手名鑑191>アダム・スコット(前編)

A.スコットのパットのパフォーマンスを支えているのは「エイムポイント・テクノロジー」という理論だ

■ グリーン上で指差し スコットが行う物理学的パット法

アダム・スコット(35)が2週前の「ザ・ホンダクラシック」、先週の世界ゴルフ選手権「WGCキャデラック選手権」と2週連続優勝。あっと言う間にツアー13勝目を挙げ、世界ランクはこの2週で13位から6位に急浮上、ポイントランクでもトップに躍り出た。今年からアンカリング禁止になり、これまでと異なるスタイル採用を余儀なくされたが、ホンダでのパット貢献率はフィールド23位で勝利に大きく貢献。キャデラックでも最終ホールで3mのパットを決めて勝利をもぎ取るなど、パットの上手さ、好調さが光った。

彼のパットのパフォーマンスを支えているのは「エイムポイント・テクノロジー」という理論だ。グリーン上でラインを読む際に行う不思議な指差しの姿は、ラインを読むメソッドを実行している最中なのだ。フロリダ州オーランドのインストラクター、マーク・スウィーニーが7年前に考案した方法で、グリーンの勾配を体で感じ、どこを狙うかを指で設定する。このメソッドはその後、プレー中に短時間で判断できるよう数値化した「エイムポイント・エキスプレス・リード」に改良され、スコットら多くの選手たちが取り入れている。

グリーンの勾配を1~10%に分け、プレーヤーが感じた勾配に応じて、1%につき指を1本かざし、そこを目標にしてストロークする。2%なら指2本、3%なら3本と増やす。例えば右から左の勾配が1%ならば、後方線上に立った状態で体の前に出した1本の指をホールの右側に合わせ、そこを目標に構えてストロークする。2%ならば指を2本、3%なら3本と、指の数は最大10本まで(実際は6~7%が最大)増やすことができる。傾斜が左から右の場合は、ホールの左側に指を合わせる。考案者スウィーニーは、元ソフトウェアの開発者で、ボールとラインの関係を物理学に基づいて追及し、このメソッドを確立した。プロでもパットの約4割はミスリードと言われ、勘で目標を定めるより成功率が高いと一気に広まった。

■ レッスン番組がエミー賞を受賞 選手が飛びついたエイムポイント法

トッププロでこの方法を最初に採用し、結果を出したのは、現在もLPGAで活躍中で元世界ランク1位のステーシー・ルイスだった。6年前、ルイスの大活躍でエイムポイントが注目を集めた。そして2011年に、米国ゴルフチャンネルで放映されたエイムポイントのレッスン番組が反響を呼び、エミー賞(米国テレビ芸術科学アカデミーが主催する賞)を受賞し、すぐに世界各地のゴルファーがトライするようになった。

選手も関心を抱き、全英オープンなどメジャー3勝のパドレイグ・ハリントン、マスターズなどメジャー6勝のニック・ファルド、昨年の全米オープン覇者ジャスティン・ローズ、イタリアのエドアルド・モリナリ、ビッグヒッターでツアー3勝のJ.B.ホームズらが採用。シニアも含めると、男子だけで30人を超える選手たちが実戦で採用し、著名インストラクターらも積極的に活用をはじめた。

■ 義弟のすすめで即!実行 即!優勝

スコットがこの方法を採用したのは義弟(妹ケイシーの夫)でコーチのブラッド・マローンの勧めだった。14年1月、ハワイの試合で現地に赴いたマローンは、考案者スウィーニーから直接ノウハウを学び、すぐにスコットに伝授した。3か月の練習を経て、5月のコロニアルから実践したところ、優勝して即結果につなげた。世界ランク1位に就いて、最初の試合だった。

スコットは数年間パットに悩み続け、最後の手段として11年2月の世界選手権マッチプレーから長尺パターを採用した。世界屈指のショットメーカーと言われた彼も、2010年までの3年間は、パットのランクが180位前後と信じられないほど悪化していたからだ。だが、長尺アンカリングのスタイルに変えたからと言って、すぐに改善の兆しが見えた訳ではなかった。変えた年の11年には、パットのランク143位。13年は103位で、改善の度合いは微妙と思われた。しかし、14年はランク55位と飛躍的に上昇。自信を取り戻したスコットは「僕を含め多くのゴルファーは直感、推測でラインを予測する。だから正しくラインを読み切れない」と考えるようになった。一見、奇妙な動作で抵抗がないわけではなかったが、根拠に基づき冷静にラインを決められ、グリーン上で不安を抱えた彼には光明となった。

■ 僕はもう大丈夫 Good bye ! アンカリング

それでもパッテイングへの不安はつきまとった。2016年からアンカリング禁止が決まり、2015年内には対策を講じなくてはならなくなった。試行錯誤を繰り返すうち、再びパットの調子は下降。長尺をやめ、ノーマルレングスのパター数本に絞り込み、グリップのマイナーチェンジも行うなど模索は続いた。長尺、中尺パターでアンカリングをしていた他の選手も、苦労しながら新たな方法を模索していた。2011年の全米プロ覇者キーガン・ブラッドリー、2012年の全米オープン覇者ウェブ・シンプソン、ツアー5勝のカール・ペターソンら強豪選手もアンカリング禁止以降の低迷は否めない。

スコットはもがきながらも「エイムポイント・エキスプレス」を続行。勝負パターも15年9月のプレジデンツカップから、マレットタイプのスコッティ・キャメロンX10、長さ35インチに決めたものの結果が出ず、彼の今後を不安視する声も聞かれた。だが2月中旬のノーザントラストオープンで2位タイと好転。その翌週のザ・ホンダクラシックで、21カ月ぶりに優勝し、不安を吹き飛ばした。その夜は嬉しさのあまり、なかなか寝つけなかったほど、彼はもがき苦しんでいたのだ。4月の世界メジャー初戦であるマスターズも目前。今年は短尺パターを手に、エイムポイントでオーガスタのグリーンを完全読破、最高の状態でメジャー&マスターズ2勝目を狙う。

※後編は ゴルフ界の「ましゃロス現象」 祝!結婚も女性ファンが悲鳴

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

特集

今年で146回目を迎えるゴルフ史上最古の大会である全英オープンが7月20日(木)ロイヤルバークデールGCで開幕する。松山英樹は初のメジャー制覇へ、クラレットジャグに名を刻むことはできるか!?
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」どんなプロにも、素晴らしいプレーを生み出すクラブセッティングが隠されている。クラブ研究こそ上達の近道か!?