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【番外編_142】20 Years of タイガー・ウッズVol.1「プロゴルファー、タイガー・ウッズ誕生」

■ プロ生活 20周年

2015年はタイガー・ウッズが20歳でプロ転向を果たし、20年目という節目のシーズンを迎える。さらに年末には40歳を迎えるタイガーは、30歳代最後のシーズンとなる。

これまで歴代2位の79勝、メジャー14勝、最優秀選手賞11回など数々の偉業を達成。これからも新記録に挑戦、前人未到の戦いが続く。ウッズがプロ転向した1996年は、日本では平成8年。橋本龍太郎が首相に就任、米国ではビル・クリントンが大統領に再選された年である。アトランタ五輪開催、映画は「ミッション・インポッシブル」が人気で、ゴルフ界に旋風を巻き起こしたウッズとイメージが重なったことを覚えている。プロ生活20年もの間、喜怒哀楽、いろいろなことがあったが、今、改めて彼の“凄さ”を痛感する。彼に敬意と激励の意を込め、振り返ってみようと思う。

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■ デビュー戦であわや失格 エントリーフィーの100ドルがない!

1996年8月25日、ウッズは史上初の「全米アマチュア選手権」3連覇を成し遂げ、話題をさらった。その2日後の27日、大学を中退し電撃的にプロ転向を表明。ゴルフ史を変え、次々に記録を塗り替えるプロゴルファー“タイガー・ウッズ”が誕生した。同週に開催された「ミルウォーキー・オープン」に急きょスポンサー推薦で出場を果たすと、大会前に行われた記者会見での第一声は「Hello World」、契約したナイキ社の世界戦略でもあり、8月29日の ウォールストリート・ジャーナルなど米主要新聞は全面3ページという異例の広告が掲載された。最初のページは真ん中にタイガーが発した「Hello World」の文字だけという、衝撃的な世界への挨拶だった。

ナイキ社との契約金は破格の約40億円とされ、「プロでまだ何の実績をあげていない選手には高額すぎる」、「アマチュアで活躍してもプロで消える選手も多い。その価値があるのか」など、世間は懐疑的だったが、そんな声もたった数か月で消えた。ウッズは想像をはるかにこえる飛躍をみせ、ゴルフに興味のない人たちも惹きつけていった。高額所得アスリート世界番付で常に上位の現在からは想像できないが、デビュー戦でエントリーに必要な100ドルすら所持しておらず、危うく出場できないところだったが、当時のコーチ、ブッチ・ハーモンに100ドルを借り、何とか出場を果たしたのである。その後、クレジットカード取得と同時に、巨額のスポンサー契約まで成立したのだ。

■ “タイガー”という名の由来

ウッズのフルネームはエルドリック・タイガー・ウッズで、ミドルネームのタイガーは父アールが後に加えた名だ。父は米国陸軍特殊部隊(グリーンベレー)に所属しベトナム出兵2回、最前戦に立った経験もある。父にはタイガーという名のタイ人の戦友がいた。97年、ニューヨークでアールにインタビューした際に「勇敢で、思いやりのある素晴らしい男だった。今も彼を尊敬している」と静かに語った。任務を終えて帰国してからは戦友のタイガーとは音信不通になり、懸命に捜索するも見つからなかった。父は彼との再会を願い、あるアイデアを思いついた。「息子にタイガーと名づけ、ゴルフで有名になれば私たちを知り、連絡をくれるかもしれない」と。息子は著名選手になったが、戦友からの連絡はなかった。

僕がアール氏と会ってから数年後、ある雑誌が「(戦友は)既に亡くなっていた」と報じた。タイガーの名には“強い虎”のイメージだけでなく、彼のように清々しく生きてほしいという父の熱い思いがこめられている。ウッズはチャリティイベントなどで入場する際、映画「ロッキー」のテーマ曲“Eye of the Tiger”を流すなど、我が名を心から誇りに思っている。

■ 僕の人種は“カブリネシアン”

ウッズは自分のアイデンティティについて悩んだ時期があった。多くの民族の血を受けているため、自分の人種を何と言えばいいのか戸惑い、学校の書類など人種を選択する項目で複数に印をつけていた。父は2分の1が黒人、残り半分の中にはアメリカ先住民族、中国、白人の血を受けている。母クルティダは半分がタイで、残りはオランダ、中国が4分の1。つまりウッズは6つの人種の血を受け継いでいる。ある記者会見で「僕は黒人ではない。むしろアジアンという意識が強い。でも、そのことに特にこだわっていないし、マイノリティの誇りを持っている」と話したのが強く印象に残っている。会見の最後に「では、あなたは何人ですか?」と問われ“カブリネシアン”と言った。Caucasian(白人)、Black(黒人)、Netherland(オランダ)、Native American(先住民族)、Asian(アジア人)の言葉を上手く繋ぎ合わせたウッズオリジナルの表現だった。米国は移民の国であり、オバマ大統領ら複数の血を受け継いでいる人種の活躍が目覚ましい。ウッズの活躍は、米国の変化を象徴する出来事にもなった。

■ 最終日に“赤シャツ”を着る理由

欧米選手の多くはキリスト教徒だがウッズは仏教徒だ。母は生れも育ちもタイ国。タイは国民の9割が仏教徒と言われ、母もそうだった。母の影響で子供の頃から年に一度は寺院に参拝し、お守りである金のネックレスをいつも身につけていた。大学時代にそれを狙う暴漢に襲われケガをした経験もあるが、幸い致命傷には至らずに済んだ。スキャンダルから復帰を目指した際も仏教への帰依で、心の平穏を取り戻したと話した。

緊張漂う試合のスタート直前の、選手たちの行動は興味深い。ある選手は気持ちを落ち着かせようと聖書の言葉を小声でつぶやいたり、ティショットの前に、指で十字を切る選手もいる。キリスト教徒の選手は、時間が許せば日曜日に近くの教会へ礼拝に行くこともしばしば。ウッズがスタート直前、必ず行うのは“黙祷”だ。数秒間、頭を垂れ、不動。その意味を母クルティダに尋ねると、「集中力を高め、恐怖を取り除き、幸運を祈っている」とのことだった。20年間、欠かさない習慣「最終日は赤シャツ」の意味も、母の助言で「タイ仏教ではウッズの生まれ年のラッキーカラーが赤」だからだそうだ。近年はエンジ系の赤やストライプのシャツが多かったが、今年は燃えるような真紅のシャツで優勝争いを見せてほしい。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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