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全英オープン
期間:07/16~07/19  場所: セントアンドリュース(オールドコース)(スコットランド)

大切なことはリンクスとトム・ワトソンが教えてくれた

セントアンドリュースで最後の全英を戦った セントアンドリュースで最後の全英を戦ったトム・ワトソン。夕闇の中でフィニッシュした

ゴルフの聖地に、レジェンドがまたひとり別れを告げた。「全英オープン」で歴代2位の通算5勝を挙げたトム・ワトソン。セントアンドリュース・オールドコースで開催の2015年大会で、“新帝王”は英国リンクスでの戦いに終止符を打った。

フィナーレは大会2日目に訪れた。大会自己ワーストとなる「80」を叩き、予選落ちが決定。「ああ、見苦しい」と笑ったが、65歳がここまで重ねてきた功績は、微塵も色あせるはずがない。

「いまは様々な思いが胸の中で交錯している」というワトソン。米国出身で、もともとはリンクスコースを得意とするスタイルではなかった。「やっと楽しめるようになった」のは1980年代初頭、既にクラレットジャグを複数回手にした後だったという。

ただ、脳裏にはその数年前の記憶が今も鮮明に残っている。75年、カーヌスティで行われた全英。冷たい雨が落ちた日曜日の朝のことだ。宿舎から外に出ると、地元の小さな女の子が駆け寄って言った。「ワトソンさん、これを持っていて。幸運がありますように」。銀紙に包まれていたのは、小さなヘザー(ヒース)の白い花。多くは紫色だが、稀に白いものがあり、スコットランドでは四つ葉のクローバーと同様、ラッキーアイテムのひとつとされる。

「最初は何のことかわからなかったが、あれから何年もカバンの中に入れていたんだ。彼女は可愛くて、無垢で、ただ私に幸運を届けようとしてくれた」。ジャック・ニュートンをプレーオフで破り、全英初制覇を遂げる数時間前の出来事だった。「あの娘は当時ゴルフをしたことはなかったはず。両親がそうするよう話したんだと思う。ゴルフはスコットランドではそういうものだった。プレーしない人もゴルファーの気持ちを理解してくれた」

幸運の白い花に導かれ、ワトソンは英国リンクスの英雄になった。2009年にはターンベリーで59歳にして71ホール目まで単独首位を走った。だが、最終18番で第2打がわずかにグリーン奥にこぼれ、ボギーとしてプレーオフに突入。快挙達成はならなかった。最後は、ツキに見放された。

ワトソンは、運とゴルフの関係について言う。「キャリアで『あそこで、ああ変わっていたら…』と思うことなどない。アンラッキーなバウンドもあれば、ラッキーバウンドもある。私のキャリアは幸運なことの方が多かったように思う。これまで、ただの1打で試合に負けたことが何度もあった。だが、ただの1打で勝ったことも何度もあった。(良いことと悪いことは)きっとバランスが取れている」

フォロースルーを取った直後、ボールの軌道を見守るワトソンの口元にはいつも笑みが浮かぶ。数秒後に訪れるのが不運だったとしても、それを受け入れるかのように。「リンクスでのゴルフに確実なものはない。ラッキーバウンドがあるか、何が起こるか、ボールはどこまで転がって止まるかは誰も分からない。2009年の最終日、18番だって、私は思った通りのショットを打った。わずかな違いで下りの傾斜に落ちてしまっただけなんだ」

65歳にして衰えぬ姿。今後はシニアメジャ 65歳にして衰えぬ姿。今後はシニアメジャーでリンクスの舞台に立つ予定

不運を嘆いてばかりでいないか、幸運への感謝をいつの間にか忘れていないか。「すべてを意図のままに操りたい」と、完璧だけを求める姿勢は、あるがままの自然の前では的外れな思い上がりか、傲慢な態度なのかもしれない。

ワトソンの5度の全英制覇のうち、セントアンドリュースで手にした勝利はない。それでも、このゴルフの聖地はフィナーレを飾るシーンとして、やはり最高だった。

午前に3時間の中断を経て行われた第2ラウンド。午後5時前にティオフしたワトソンの同日中のプレーは完了できるか微妙だった。日没間際の午後9時半を過ぎたころ、サスペンデッドの準備を始めたスタッフに同組のアーニー・エルス(南アフリカ)が言った。「ここにいるのはレジェンドだ。あす朝6時半に来て、別れを告げるファンはいない」

その言葉が大会側に伝わったのかは定かではない。ただ暗さで視界が制限されても、数分の間、全組のプレーは続行され、他のホールでは連絡を受けたボランティアスタッフたちは大声で周囲に案内した。「ワトソンが、最終ホールに入ります」。ギャラリーの多くが、18番を目がけて走り出した。ワトソンたちがそのティにたどり着いた後、セントアンドリュースに翌日順延のホーンが響く。大観衆を引き連れたその組は、期せずして美しき夕闇の中を歩く“最終組”になった。

人々の思いと自然が演出した運命のめぐり合わせ。それもまた、感謝すべき幸運のひとつだった。(スコットランド・セントアンドリュース/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち)
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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